変更日が分からない「定款変更」をどう処理するか?実務整理
結論(本コラムの要点)
・(例えば)単元株式の定めは定款事項であり、登記事項にも該当します。過去に定めが存在した痕跡(定款・株式取扱規程・旧議事録等)が残っているのに登記がない場合、変更登記か更正登記か、まず原因と日付の立証可能性で切り分けます。
・原因・日付が特定できないなら、無理な推定で登記を試みるより、社内書類と登記・株主リストの整合を最優先に、前提整理→将来設計で解決するのが安全です。
・典型解は、実体を踏まえつつ取締役会で「単元株式数の廃止」等の定款変更を先行し、以後の株主総会書類・株主リストを「単元株式なし」の状態に統一する手順(※取締役会で足りる設計かは定款の委任の有無で判断)。
よく起きる背景(親会社の定款を“まねる”ことの副作用)
・単元株式の漏れ登記を素材に実務整理をすると、例えば親会社が公開会社で単元株式を採用、非公開の子会社にも“転写”されているが、実務では単元未満株式を運用していない…という状況は珍しくありません。
・その結果、議事録では「議決権=発行済株式総数」と記載され続け、単元株式前提の数え方と矛盾。登記も漏れたまま年月が経過、という構図が生まれます。
まずやること・三層の突合チェック
① 定款・規程
最新定款、本店備置の新旧対照表、株式取扱規程の「単元株式」条項の有無・沿革。
② 会議体書類
単元株式導入・変更がうかがえる株主総会議事録、株主リストの議決権数の算定方法。
③ 登記情報
履歴事項全部証明書で、「単元株式数」登記の有無と近接する他の変更履歴を確認。
ここで原因・日付を特定できる紙証拠がそろえば、原則は変更登記の射程。特定できなければ次章へ。
変更登記か、更正登記か――判断の軸
・変更登記:実体として「定款変更により新設・変更された」事実があり、原因・日付が特定できる。
・更正登記:既にあった事実の誤記・遺漏を正す枠組み。ただし、原因・日付を欠いた“新設”の代替として使うのは危険。
実務で衝突しがちなのは、「登記できない」と「登記しなくてよい」は別概念という点。立証不十分で“できない”からといって、“不要”と認めた趣旨とは限りません。文言・記録を厳密に残すべき場面です。
立証が困難なときの“安全な出口”設計
手順案(社内文書と登記の整合を最短で回復)
1.現状の方針確定
実務上、単元株式を今後も運用しない方針かを確認。
2.権限と手続経路の確認
定款で単元株式数を取締役会決議で定める委任があるかを点検。委任があれば取締役会で廃止可能。
3.先行の定款変更(単元株式数の廃止)
取締役会決議(または株主総会決議)で単元株式を廃止。以後の会議体資料は**「単元株式なし」**に統一。
4.以後の登記・株主リストの整合
今回以降の株主総会議事録・株主リストの議決権数を新状態で記載。
5.過去分の扱い
実体を覆さない範囲で、過去議事録の誤植・運用ミスの社内メモを残置(責任追及・虚偽記載リスクを回避)。
ポイント:「今後を正しくする」ことで、株主総会書類の補正リスクと二次トラブル(虚偽記載・整合不全)を避ける設計です。
株主リスト・議事録で崩れやすい箇所(ミス防止メモ)
・議決権数:単元株式があるなら「発行済株式÷単元株式数」で算定。廃止後は発行済株式数に一致。
・単元未満株式:存在する場合の議決権の扱いに注意(書き方のテンプレを使い回すと崩れます)。
・添付の一貫性:議事録・株主リスト・登記申請書の前提(単元の有無)を必ず一致させる。
似た論点・株式譲渡制限規定の「定款にはあるが登記がない」
・譲渡制限は取引実務への影響が大。単元株式以上に過去の整合回復が求められます。
・立証できるなら変更登記、できないなら再設定(新設)を明示し、日付は現行決議日で整合。株主・相手方への周知手当もセットで。
実務チェックリスト(最終確認用)
□ 定款・規程・旧議事録の整合が取れている
□ 原因・日付が特定できる/できないの判断を明記
□ 今後の方針:単元株式の維持/廃止
□ 権限経路:取締役会で足りるか/株主総会か
□ 株主総会書類・株主リスト・登記三位一体で前提統一
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本日は、変更日が分からない「定款変更」をどう処理するか?実務整理について解説いたしました。
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