株式

種類株式発行会社における自己株式取得の手続

自己株式の取得に種類株主総会決議は必要か?

普通株式と無議決権株式を発行する種類株式発行会社が、自己株式を取得する事例をもとに考察します。
当該会社は、定款で種類株主総会を最大限不要とする規定を置いており、今回の取得対象は両方の株式であった場合
自己株式の取得に種類株主総会決議が必要か」という論点が生じます。

会社法322条には列挙されていない内容であるが、無議決権株主が自分の株式と同じ種類の株式取得に関して決議に関与できないのは妥当かどうか、疑問が残る。

自己株式取得の基本手順

まずは通常の手続きフローを整理しましょう。

不特定株主から取得する場合

1.株主総会で取得決議(数・価額上限・期間の決定)
2.取締役会で具体的内容を決定
3.株主へ通知
4.株主から譲渡申込み

特定株主から取得する場合

1.事前通知(株主は自己を対象に加えるよう請求可能)
2.株主総会で取得決議(数・価額上限・期間・特定株主からの取得を明示)
3.取締役会で具体的内容を決定
4.特定株主へ通知
5.特定株主から譲渡申込み
※定款で別段の定めがある場合(会社法164条1項)は、事前通知を省略可能。

商法時代は「不特定株主からの取得」自体がなく、非上場会社は特定株主から取得するしかなく、定時総会で決議する必要があり、臨時総会で行うには裏技的対応が必要だったが、会社法下では使いやすさが増しています。

優先株式(無議決権)の取得における流れ

普通株式30株、優先株式(配当優先・無議決権)70株の状況を前提に、優先株式を自己株式として取得する場合を整理すると次のとおり。

不特定株主から取得する場合

1.株主総会で決議(優先株主は議決権なし → 普通株主が議決)
2.取締役会で具体的取得決定
3.優先株主に通知
4.優先株主から申込み

特定優先株主から取得する場合

1.特定の優先株主に事前通知(他の優先株主は自己を対象に加えるよう請求可)
2.株主総会で決議(優先株主に議決権なく、普通株主が議決)
3.取締役会で具体的取得決定
4.特定優先株主に通知
5.特定優先株主から申込み

種類株主総会の要否と疑問点

上記いずれのケースも、種類株主総会の決議は不要と整理されています。
ただし、特定株主から取得する場合、定款規定により事前通知を省略できると、優先株主は自らの株式種別が取得される事実を知らされない可能性があります。
しかも、対象株主は議決権を行使できず、他の種類株主(普通株主)のみによって特別決議が成立します。
この仕組みに対しては「割り切れなさ」が残るものの、会社法322条等には種類株主総会の要否は列挙されていないため、やはり不要と整理されます。

まとめ

・自己株式取得は「不特定株主から」と「特定株主から」で手順が異なる。
・無議決権株式を取得する場合でも、議決権を行使するのは普通株主。
・種類株主総会は会社法上不要と整理されているが、実務上は違和感が残る場面もある。

手続きのご依頼・ご相談

種類株式発行会社における自己株式取得の手続について解説いたしました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務までお問い合わせください。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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