取得条項付株式の取得手続と登記実務『いつでも』条項・通知方法・添付書類の整理
取得条項付株式の基本的仕組み
取得条項付株式とは、会社が一定の事由を条件に株式を取得できるとする種類株式です(会社法108条1項6号、107条2項3号)。
株式設計としては、事業承継や資本政策の整理に利用されることが多く、実際に取得条項を発動させる案件は珍しいといえます。
実務の典型的な流れは次のとおりです。
1.定款変更により、特定の種類株式に「取得条項」を追加する。
2.会社が当該株式を取得する。
3.取得の対価として普通株式等を交付する。
4.取得された種類株式は自己株式となり、消却する。
5.種類株式が消滅した場合には、発行可能種類株式総数や内容を削除する定款変更を行う。
この流れを一括して申請することも可能であり、登記の現場では「定款変更→取得→消却→廃止」の一連処理として扱われるケースがあります。
取得条項の定め方と解釈
定款記載例としては以下のようなものがあります。
「当会社は、令和ん●年●月●日以降いつでも、A種類株式を取得することができる。」
この場合、「平成●年●月●日以降いつでも」という文言は有効か? が問題になります。
一見すると、会社が恣意的にいつでも取得できるように見えるため、株主保護の観点から疑問が呈される。
しかし実務上は、会社法107条2項3号イ(一定の事由の発生)に該当すると解され、取得条項として有効とされています。
根拠としては、取得条項を付す定款変更自体に株主全員の同意が必要であり、不利な事由であっても株主全員が同意するならば容認される、という理解です。
通知と決定手続の整理
取得条項付株式の取得に際し、通知が事前か事後かは、条項の形式により異なります。
107条2項3号イ(一定の事由の発生)
→ 取得事由が生じた日に会社が取得し、その後に株主へ事後通知する。
107条2項3号ロ(会社が別に定める日)
→ 取締役会決議で取得日を定め、その2週間前までに株主へ通知する。
今回のように「令和●年●月●日以降いつでも」とする場合はイ型と解されるため、事後通知で足りると整理されます。
ただし、実質的には会社の裁量で取得時期を決めるため、実務では取締役会で取得日を決定し、その旨を株主に通知するのが通常運用です。
登記と添付書類
「取得条項付株式の取得と引換えにする株式の発行」の登記には、以下の添付書類が必要です(商業登記ハンドブック)。
1.一定の取得事由の発生を証する書面
(ただし直接の証明書がなければ代表取締役の上申書で可。取得日を取締役会で決定した場合は議事録が必要。)
2.一部取得の場合→当該一部の株式を特定する株主総会または取締役会の議事録。
3.株券発行会社の場合→株券提供公告を証する書面(未発行なら株主名簿等)。
今回の事例では、②③は不要で、①が問題となりました。
「いつでも」という条項であっても、取得日の決定は取締役会議事録として添付すべきであり、取得事由の発生自体を証明する書面は不要と整理されています。
一連の実務フロー(例)
最短で処理する場合の典型例を示します。
8月1日
① 取得条項を付す定款変更(株主総会+普通株主の種類株主総会+A種類株主全員の同意)
② 取得日(8月2日)の決定、A種類株式消却の条件付決議(取締役会)
8月2日
③ A種類株式を取得
④ 旧A種類株主への通知
⑤ 種類株式廃止の定款変更(株主総会)
※ 取得対価が普通株式であるため、定款変更時点では普通株主の種類株主総会が必要(会社法111条2項)。
実務上の留意点
・「種類の変更」で代替できる場面もあるが、依頼者の意向によっては取得条項を用いることもある。
・手続の選択肢が複数あるため、依頼者の希望・既存株主の理解・税務的影響を考慮して進める必要がある。
・法務局ごとに運用が異なる場合があるため、事前相談は必須。
手続きのご依頼・ご相談
本日は、取得条項付株式の取得手続と登記実務について解説いたしました。
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