新株予約権(SO) / 株式移転

株式移転における新株予約権の承継と登記実務の整理

新株予約権の承継

承継の必要性と基本法理

・主に組織再編(株式移転・株式交換・吸収合併)で生じる論点。
・完全子会社に新株予約権が残存したまま行使されると、100%親子関係が崩れるため、承継または消滅の対応が実務上不可欠。

根拠条文(要点)

区分 条文 要旨(本節の範囲で使うポイント)
新株予約権の内容 会社法236条1項8号 組織再編時に承継先会社の新株予約権を交付できる旨を内容として定められる。
株式移転計画 会社法773条1項9・10号 株式移転で承継する場合、計画書に承継に関する事項(内容・数の算定方法等)を記載する。
新株予約権者の保護 会社法808条 新株予約権買取請求権の規律。内容と計画が合致していれば買取請求権なし合致しなければ有


実務上の要点

・法律上は「承継しなくてもよい」場合があっても、完全子会社維持の観点から承継または消滅処理が通常。
・非上場会社のストックオプション(行使時は上場想定)が多く、発行→行使までの設計に加えて、将来の承継・消滅も見据えた事前設計が必要(発行登記で終わりではない)。


つまり、
承継が論点化するのは組織再編時。
・236条で「承継条項」を内容に入れられる。
・773条で株式移転計画に具体の承継事項を記載。
808条で買取請求権の有無が整理(内容=計画ならなし、不一致ならあり)。
・実務は100%維持のため、承継または消滅の処理が前提。SO案件では行使時までの見通しが要。

新株予約権の承継

承継の具体的方法

新株予約権を承継させる場合、大きく分けて 2つの方法 があります。

1.株式移転計画に定める方法
株式移転計画の中に「新株予約権の承継に関する事項」を記載する方法です(会社法773条1項9号・10号)。
・効力→株式移転の効力発生日に、完全子会社の新株予約権は消滅し、代わりに親会社の新株予約権が割当てられます。
・登記→設立登記と同時に、新株予約権の内容を承継先である完全親会社の登記事項に記載します。通常の新株予約権発行登記のような添付書類は不要で、株式移転計画の記載で足ります。
・特徴→もっともシンプルで、手続きの手間や期間を大幅に短縮できます。実務的にもこちらが選ばれることが多いです。

2.別手続による方法
株式移転計画に承継の定めを置かず、株式移転成立後に別途新株予約権を発行する方法です。
手順
1.株式移転の設立登記
2.完全親会社で新株予約権の発行手続(取締役会決議 → 株主総会決議 → 取締役会決議 → 申込・割当契約)
3.既存の新株予約権:完全子会社の既存新株予約権は消滅させ、別途発行する新株予約権に差し替えます。

特徴→既存の新株予約権者以外にも割当てが可能(第三者割当ができる)。ただし、時間・コストはかかる。

方法の比較表

項目 株式移転計画に定める方法 別手続による方法
法的根拠 会社法773条1項9号・10号 通常の新株予約権発行手続
効力発生 移転効力発生日に同時に承継 移転効力発生日以降に別途発行
登記手続 設立登記に併せて承継内容を記載(添付不要) 募集新株予約権発行登記が必要(通常添付書類も要)
メリット 手続簡便・迅速 既存権者以外への割当可能
デメリット 原則として承継先限定 手続煩雑・時間がかかる


実務上の選択

実際には、第1の「株式移転計画に定める方法」が圧倒的に多く採用されています。
理由は、手続が簡潔で、登記に要する添付書類も最小限で済むためです。
一方で、既存権者以外への割当が必要な場合や、新株予約権の内容を再設計したい場合は、あえて別手続を選ぶケースも存在します。

新株予約権の消滅方法

組織再編において新株予約権を承継させずに消滅させる場合や、その他の理由で新株予約権を消滅させる場合には、いくつかの方法が存在します。以下に代表的な方法を整理します。

1.取得条項による取得・消却
概要→新株予約権の内容として、会社が一定の事由(例:組織再編時)により新株予約権を取得できる旨を定めておく。
実務→会社が新株予約権を取得したうえで「自己新株予約権」とし、取締役会等で消却決議を行う。
特徴→最も一般的かつ利用しやすい方法。承継させない場合にも柔軟に対応可能。

2.新株予約権の放棄
概要→新株予約権者が自らの意思で権利を放棄することにより消滅させる。
要件→新株予約権者全員の放棄が必要。部分的放棄は他の権利者保護の観点から実務上難しい。
添付書類(登記申請時)→放棄証書

3.会社への無償譲渡
概要→新株予約権者が会社に新株予約権を譲渡し、会社が自己新株予約権として消却する方法。
留意点→多くのストックオプション契約では「譲渡禁止」が定められており、原則として利用は困難。
※実務例はほとんど存在せず、理論上の可能性にとどまる。

4.行使期間満了まで放置
概要→承継も消滅もさせず、そのまま行使期間を経過させることで自然に消滅させる。
利用場面
例:新株予約権の行使条件に「上場すること」が含まれている場合、組織再編後にその条件を満たさないため、結果的に行使不能となる。
特徴→費用・手間がかからないが、法務局の登記処理や利害関係人への説明上、不明確さが残る場合がある。

新株予約権の消滅方法比較表

方法 メリット デメリット 添付書類
取得条項による取得・消却 柔軟に対応可能、一般的 発行時に取得条項を定めておく必要あり 委任状のみ
放棄 手続簡便(全員合意あれば) 全員の放棄が前提、補正リスク 放棄証書
無償譲渡 理論上は可能 契約で譲渡禁止が多く実務困難 譲渡契約書等(想定)
放置(行使期間満了) 手間・コスト不要 登記処理上の不明確さ 特になし


登記申請手続と添付書類

新株予約権の承継や消滅を行う際には、登記申請が必要となります。
ここでは 株式移転を伴う場合 と 個別に承継・消滅させる場合 に分けて、登記手続の流れと添付書類を整理します。

株式移転計画に基づいて承継させる場合

登記の流れ
・「株式移転による設立登記」と「新株予約権の消滅登記」を 同時経由申請 する。
・設立登記の登記事項に、承継した新株予約権の内容を記載する。

添付書類
・株式移転計画書(新株予約権の内容を含む)
・既存の新株予約権について通常の発行登記で必要な書類は不要
・株式移転完全子会社側:委任状(管轄が異なる場合は印鑑証明書も)

株式移転とは別の手続きで承継させる場合

登記の流れ
・株式移転の設立登記を申請(申請日=設立日)。
・その後に募集新株予約権の発行手続きを行う(取締役会・株主総会等)。
・既存の新株予約権については、通常の抹消登記を行う。

添付書類
・募集新株予約権発行時:通常の募集新株予約権の添付書類一式(決議議事録、申込書等)。
・既存新株予約権抹消時:委任状(原因が「放棄」の場合は放棄証書)。

消滅方法ごとの添付書類の違い

消滅方法 登記原因 添付書類
取得条項による取得・消却 「消滅」 委任状のみ(取得証明不要)
放棄 「放棄」または「消滅」(法務局により異なる) 放棄証書(ただし「消滅」と補正される場合あり)
無償譲渡→消却 「消滅」 譲渡契約書(想定)、委任状
行使期間満了 「消滅」 委任状のみ


実務上の留意点

法務局の運用差
・「放棄」を登記原因として認めるかは、法務局により取扱いが異なる。
・ある法務局では「放棄」で受理、別の法務局では「消滅」に補正を求められる。

既存新株予約権の整理
・株式移転前に一部の新株予約権が既に消滅している場合、前提として完全子会社側の変更登記が必要となる場合がある。

税務上の論点
・新株予約権の承継・消滅は税務上の取扱いに影響するため、事前に必ず確認が必要。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、株式移転における新株予約権の承継と登記実務の整理について解説いたしました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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