定款変更

責任限定契約の定款と契約内容がズレている?登記・報酬ゼロ・金額設定の実務注意点

社外役員に対する責任限定契約とその登記必要性

会社法第427条に基づき、株式会社は、社外取締役や社外監査役などとの間で、一定の条件を満たすことにより、その責任の限度を定めた契約(責任限定契約)を締結することができます。
もっとも、責任限定契約を有効に締結するためには、あらかじめ定款にその旨を規定しておくことが必要です。

責任限定契約と定款規定の整合性「条文とモデル条文の確認」

責任限定契約を有効に成立させるためには、会社の定款に、会社法第427条第1項の趣旨に沿った規定を設ける必要があります。
たとえば、株主懇談会(いわゆる「株懇」)が示すモデル定款では、以下のような規定が用いられています。

「当会社は、会社法第427条第1項の規定により、社外取締役との間に、任務を怠ったことによる損害賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく責任の限度額は、〇〇万円以上であらかじめ定めた金額または法令が規定する額のいずれか高い額とする。」

この条文構造を整理すると、次のように読み解くことができます。

区分 内容
条文の根拠 会社法第427条第1項
契約当事者 社外取締役・社外監査役・会計参与・会計監査人
条件 善意かつ重大な過失がない場合
限度額 あらかじめ契約で定めた金額または法令上の最低責任額のいずれか高い方

このように、モデル定款では「〇〇万円以上であらかじめ定めた額」と具体的な金額を明記する形がとられています。
しかし、実務上は、契約段階で金額を決めたいというニーズもあり、定款に金額を固定的に記載することに慎重な会社もあります。
特に上場企業では、登記簿に表示される金額が見た目に影響するとの配慮から、「最低でも100万円程度に設定しよう」といった暗黙の判断が働くこともあります。
このような実務感覚が、モデル定款と現場運用との間にギャップを生じさせているのが実情です。

契約内容と定款規定に齟齬がある場合の問題点

現状、定款上「法令で定める最低責任限度額を予め定めた額とする」という、比較的抽象的な形式の規定を定めている会社が多く見受けられます。
一方、実際に締結された責任限定契約書には、

「金◯◯円以上又は法令で定める最低責任限度額のいずれか高い額」

と明記されており、具体的な金額が記載されていたりします。
このように、定款の規定と契約書の内容にズレがあるというのは、実務上しばしば見受けられるものですが、決して軽視できる問題ではありません。
しかも、当該社外取締役の報酬はゼロ(無報酬)。この点も論点となります。

会社法上の責任限度額は、報酬額をもとに以下のように算定されます。

役職 最低責任限度額の目安(※)
社外取締役・社外監査役 報酬2年分
非社外取締役 報酬4年分
代表取締役 報酬6年分

※ 実際には会社法施行規則等で定められた計算方法によるが、概ねの目安としてこのように認識されています。
したがって、理屈上は報酬が0円であれば、理論上の責任限度額も0円という解釈が可能になります。
つまり、責任限定契約を締結しようがしまいが、「実質的に責任はゼロ」になるともいえるのです。

しかし、それでも契約書に「金◯◯円以上」と記載されていれば、その額の責任を負うことになりかねません。
ということは、結局、無報酬なのに責任だけ契約で大きくされているという矛盾が浮かび上がるのです。

このような実務上の不整合は、「定款を変更する」か「契約内容を修正する」かして、両者の整合性を取る必要があると考えられます。

定款と契約の整合をとる実務対応とその限界

責任限定契約における金額設定をめぐる混乱を避けるために、実務では「法令で定める最低責任限度額=予め定めた額」としておく方法がよく採られます。
たとえば、ある社外取締役の月額報酬が10万円であれば、法令上の最低責任限度額は「10万円×12ヶ月×2年=240万円」となります。
契約書においても、あえて具体的金額を明示せず、以下のような条文で処理することが可能です。

「本契約における責任の限度額は、会社法第427条第1項に基づく法令で定める最低責任限度額とする。」

このように記載すれば、定款と契約の内容に齟齬が生じず、かつ、実質的に契約での金額設定もクリアできるため、整合性が保たれます。
一方で、実務上は、設立直後の会社や資金繰りが厳しい企業では、役員に対する報酬をゼロとしているケースもあります。こうした会社においては、報酬が存在しない以上、法令上の最低責任限度額は「ゼロ」となります。
この場合、契約書に「金◯◯円以上」と書いてしまうと、定款の趣旨(=責任ゼロでも構わない)と食い違う事態となるため注意が必要です。

さらに、合弁会社や親子会社など、役員が出向者(親会社従業員)で構成される会社では、株主構成や利害関係から実際に責任追及がなされる可能性が極めて低く、「そもそも責任限定契約の必要性があるのか?」という根本的な議論も存在します。

とはいえ、現実には、「すべての社外役員に対し責任限定契約を締結する」という形式的ルールが敷かれている大企業も多く、実質と形式の不均衡はあちこちで見られます。

カタチばかり整えようとすると、かえって不合理な状況を生んでしまうケースの一例をご紹介いたしました。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、社外役員との責任限定契約とは?登記の要否と定款規定の整合に注意について解説いたしました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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