補欠取締役とは?制度の基本と実務での注意点「欠員が出たときに備える」制度の実務的な使い方を解説
補欠取締役制度は、取締役の欠員に備えてあらかじめ「条件付きで選任しておく」ことができる制度です。非公開会社でも柔軟な役員交代が必要な場面が増えており、実務でも再注目されています。
補欠取締役の制度的な位置づけ
補欠取締役の根拠は、会社法第329条第2項および会社法施行規則第96条です。通常の取締役と異なり、「すぐに就任するわけではなく、一定の条件が成就した場合に限って自動的に就任する」という特徴をもちます。
補欠取締役とは?
株主総会であらかじめ選任しておき、
・「取締役が欠けた場合」
・「法律または定款で定めた取締役の員数を欠くこととなる場合」
に限り、その効力が生じて自動的に就任する取締役のこと。
通常の取締役との違い(比較表)
比較項目 | 通常の取締役 | 補欠取締役 |
---|---|---|
就任時期 | 選任と同時 | 条件成就時に自動就任 |
登記時期 | 選任後すぐ | 条件成就後に就任承諾→登記 |
選任根拠 | 会社法329条1項 | 会社法329条2項 |
任期の起算点 | 選任時 | 就任時(原則) |
選任議案の記載 | 通常議案で可 | 補欠として明記が必要(施行規則96条) |
(よくある誤解)補欠取締役と336条の「補欠」との違い
多くの実務家が混乱するのが、「329条の補欠」と「336条3項にいう補欠(任期承継のため)」の違いです。
観点 | 329条の補欠 | 336条3項の補欠 |
---|---|---|
趣旨 | 将来の欠員に備える | 任期承継のための後任選任 |
必要要件 | 欠員が生じることに備えて事前選任 | 欠員が生じた後に補充 |
任期の取り扱い | 原則として就任時から起算 | 前任者の任期を承継可 |
適用対象 | 取締役・監査役 | 主に監査役(※慣例上) |
この違いを意識しておかないと、「補欠として選任したつもりが任期承継されなかった」「登記に必要な文言が不足していた」といった事態を招きかねません。
補欠取締役を選任する実務的なメリット
・取締役が辞任予定だが辞任日が未定
・新任取締役の就任意思確認があとになる
・株主総会の開催を一度で済ませたい
・外国人取締役の就任承諾書準備が遅れている
こうした状況において、補欠取締役を選任し就任承諾を条件付きで留保することにより、柔軟な対応が可能となります。
補欠取締役の選任を活用すべきケースとは?
補欠取締役は、将来的に取締役の欠員が生じる可能性に備えて、事前に株主総会で選任しておくことができる制度です。以下のようなケースでは、制度の活用が有効です。
よくある実務例
ケース | 活用理由 | 留意点 |
---|---|---|
年度末の人事異動が予定されているが、辞任日が確定していない | 辞任後すぐに欠員を補いたいが、株主総会を再度開催するのが難しい | 株主総会で補欠取締役を選任し、就任承諾書を辞任日に合わせて提出する運用が有効 |
合弁契約等により、取締役の人数を厳格に維持する必要がある | 人数が欠けると契約違反になる恐れがある | 被補欠者を特定し、員数維持のために計画的に補欠を置く必要 |
定款で役員数を固定(例:「取締役5名とする」)としている会社 | 欠員が生じると定款違反になる | 欠員=登記懈怠に直結するため、補欠取締役の事前選任が重要 |
補欠取締役の登記と就任時期のポイント
1.補欠取締役の登記は「就任後」
補欠取締役は、選任時点では登記不要です。あくまでも、辞任等によって欠員が生じ、補欠として実際に就任した時点で登記が必要となります。
・選任時点の登記 → 不要
・就任承諾後の登記 → 必要
2.就任承諾のタイミング
就任承諾は、以下の2つの方法が認められています。
タイミング | 概要 | 活用例 |
---|---|---|
選任時点で承諾し、就任を留保する | 補欠就任の条件が整った時点で自動就任扱いになる | 外資系・合弁会社などでサイン証明書の準備が難しいケースに有効 |
辞任後に承諾する(就任日=承諾日) | 欠員が確定してから、登記書類を整備して就任 | 辞任届の到着後に確実な手続を行いたい場合 |
任期の扱いと「補欠としての選任」の明示
任期に関するポイント
補欠取締役の就任時には、誰の後任か(被補欠者)を明確にしないと任期の判断ができません。
・任期を承継するかどうかは336条(監査役)や実務慣行により異なる
・就任の際には議事録・就任承諾書に「○○の補欠として」の記載が望ましい
記載例(就任承諾書)
「私は、2025年3月10日付で辞任した取締役○○の補欠として選任されており、本日その就任を承諾いたします。」
補欠取締役の選任決議に関する注意点
補欠取締役の選任決議には、通常の選任決議と異なる点があります。
要件 | 内容 |
---|---|
補欠である旨の明示 | 「補欠取締役として」選任することを議事録に明記 |
被補欠者の特定(必要に応じ) | 条件付選任とする場合は「○○の補欠として」の記載が有効 |
優先順位(複数人選任の場合) | 複数の補欠を選任する際には、登記実務上「優先順位」を決めておくことが望ましい |
効力の有効期間 | 原則は次の定時株主総会の冒頭まで。それ以降も有効としたい場合は定款で明示が必要(会社法施行規則96条3項) |
補欠取締役の制度は「準備型のガバナンス」
補欠取締役制度は、実際に欠員が出たときのための「保険」的制度です。特に以下のような会社では有効に活用できます。
・登記懈怠が許されない契約条項を持つ会社
・出向・合弁人事の流動性が高い企業
・書面決議や株主対応を迅速に行えない体制の企業
事前の想定と明確な議事録運用、補欠就任時の登記実務をセットで押さえておくことが、制度活用の鍵となります。
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