非取締役会設置会社における取締役選任と登記実務、株主総会議事録の押印・添付書類のルールを整理
取締役会を設置しない会社における代表者選任の構造
中小企業においては、機関設計として「取締役会を設置しない会社」が多数を占めています。
その場合、代表取締役の選定方法は定款により決められ、登記事項ではないため、登記の現場では常に「定款を見なくても整合が取れる書類構成」が求められます。
とりわけ、取締役会非設置会社における取締役の就任登記・代表取締役の選定については、商業登記規則61条の各項に従った対応が必要であり、実務上の誤解も多い分野です。
商業登記規則61条の構造整理
商業登記規則61条第4項
取締役が就任を承諾したことを証する書面には、市区町村長の発行する印鑑証明書を添付しなければならない。
→ 「再任を除く」取締役の変更登記全般に適用されます。
商業登記規則61条第5項
上記第4項は、取締役会設置会社においては、代表取締役・代表執行役に読み替えます。
商業登記規則61条第6項
代表取締役または代表執行役の就任登記の申請には、登記申請書に添付される議事録に押された印鑑に対応する印鑑証明書が必要です。ただし、代表者が変更前と同一人物であり、登記済の印鑑を引き続き使う場合は省略可。
このように、商業登記規則61条では「取締役の就任」と「代表取締役の就任」で扱いが分かれており、どの場面でどの証明書が必要かは、登記対象・機関設計・選定方法の組み合わせで判断する必要があります。
実務上の落とし穴(取締役会非設置会社編)
たとえば、代表取締役の選定方法が株主総会による直接選定方式か、取締役の互選による間接選定方式かによって、本来であれば登記上の添付書類や押印者が異なります。
しかし、取締役会を設置していない会社においては、その違いが登記の段階では判断できない(定款は登記されない)ため、実務上は以下のような取り扱いが定着しています。
・取締役の就任登記の添付書類(就任承諾書)については、一律に実印・印鑑証明書を求められる
・代表取締役の選定方法が互選の場合に限り、定款の写しが添付される
・代表取締役の就任登記が申請されない場合、株主総会議事録への押印は要件とされない(=印鑑証明書も不要)
このように、実務は制度的な推定と最低限の書面によって回る設計となっており、登記所側では選任方法の詳細を判断しません。
特例有限会社の場合の注意点
特例有限会社については、取締役の人数と代表権の有無によって、代表取締役の登記がされない場合があります。この場合、
・新たに代表権を有する取締役が選任されたとしても、登記上は「取締役の就任登記」として処理される
・規則61条6項が適用されるか否かについては、判断が難しいケースもあり、事実上は登記所の判断にゆだねられている部分もあります
そのため、議事録の押印や印鑑証明書の添付についても、機械的に類推することは危険であり、個別に実質を見て判断することが求められます。
実務者が“知っていて当たり前”と思い込んでいる落とし穴
司法書士などの実務者にとっては、定款の確認により代表者の選定方法を把握することが可能です。
しかし、登記所には定款が添付されない限り選定方法は不明であり、登記の受付実務では「取締役会非設置会社として一律処理」される運用になっています。
このようなギャップを理解しておくことで、書類作成時に過剰な要件を課したり、不足した添付書類で却下されたりするリスクを避けることができます。
機関設計・登記申請の対象・選任方式・添付書類要件を丁寧に整理し、常に「法務局が見ている範囲」と「実務者が知っている情報」の差を意識しておくことが、正確かつ無駄のない登記実務につながります。
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本日は、非取締役会設置会社における取締役選任と登記実務について解説いたしました。
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