相続、遺産承継業務

損害賠償債務と相続放棄の実務解説

損害賠償債務と相続の関係

被相続人が第三者に損害を与えていた場合、その補償義務(損害賠償債務)も相続財産に含まれます。
これは、民法896条に基づき、被相続人の一切の権利義務が相続の対象となるからです。
損害賠償債務は不法行為や契約違反など多様な形で発生し、その額も多額になりがちです。こうした債務を相続したくない場合、相続放棄という制度を選択することで回避が可能です。

損害賠償債務とは何か

損害賠償債務とは、他人に与えた損害を金銭で填補する法的義務のことをいいます。主な発生原因には以下が挙げられます。

発生原因例 内容
不法行為 交通事故や名誉毀損、器物破損等による損害
契約違反 売買・請負契約の不履行や瑕疵担保責任
管理義務違反 不動産の管理不備による第三者への損害
遅延損害金 債務不履行に伴う損害金の発生

これらの債務は、確定していない段階でも相続放棄の対象になり得ます。

相続放棄の基本と損害賠償債務への影響

相続放棄の効果
相続放棄が家庭裁判所に受理されると、その相続人は「初めから相続人ではなかった」とみなされます(民法939条)。このため、損害賠償債務の承継義務も免れます。

手続期間と注意点
相続放棄は「相続開始および自己が相続人であることを知ったときから3か月以内」に家庭裁判所へ申述する必要があります(民法915条1項)。
熟慮期間の延長も申立により可能ですが、期限前に対応しなければなりません。

判断基準:放棄すべきか否かをどう判断するか

1. 財産の全体像を把握する
相続放棄の可否は、プラスの財産とマイナスの財産のバランスに基づき判断します。被相続人の銀行口座、保有不動産、借金、損害賠償債務等を徹底的に調査しましょう。

注意すべき財産の見落とし例

・海外資産
・無通帳口座の預金
・未登記の不動産
・家財道具の骨董的価値

2. 債務額が未確定な場合
損害賠償債務が確定していなくとも、債務超過が明らかな場合は相続放棄の申述が可能です。将来額が膨らむ懸念があるなら、早めの放棄判断も選択肢となります。

限定承認という選択肢

損害賠償債務の金額が資産総額を上回るか不明な場合、**限定承認(民法922条)**という手段もあります。これは「取得した財産の範囲内で債務を負担する」制度です。

限定承認が適しているケース
相続財産の価値が不確か
家族の思い出の品を残したい
損害賠償額が変動する可能性がある

ただし、共同相続人全員の同意が必要で、手続は煩雑なため注意が必要です。

被害者対応での留意点

相続放棄予定者がすべきでない行動
以下の行為は、相続を承認した(単純承認)とみなされる可能性があります(民法921条)。

・被害者と示談書を交わす
・一部弁済を行う
・相続財産を処分する(預金の引出し、遺品売却など)

相続放棄の申述を行う前に、必ず専門家へ相談してください。

相続放棄後でも任意の賠償は可能

相続放棄後、相続人自身の財産で任意に損害賠償金を支払うことは可能です。道義的責任を果たす選択として行われるケースもあります。

相続放棄では免れない責任とは

相続放棄が無効なケースもあります。代表的な例は以下のとおりです。

放棄できない責任 説明
共同不法行為 相続人自身が加害者に含まれる場合は賠償義務を負う
相続人自身が保証人 被相続人ではなく相続人が保証人になっていた場合
自己破産でも免責されない債務 故意・重過失による人身損害など(破産法253条1項2号)


手続きのご依頼・ご相談

損害賠償債務があるときの相続放棄は迅速かつ慎重に検討しましょう。
損害賠償債務が存在する相続では、早期に正確な財産状況を把握し、3か月以内に「放棄」「限定承認」「単純承認」のいずれかを選択する必要があります。対応を誤ると放棄ができなくなり、損害賠償義務を背負うリスクもあります。

ご不安な場合は、相続財産の調査段階から専門家へ相談されることを強くおすすめします。
不動産登記・会社法人(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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