特定の株主からの自己株式の取得方法と手続きの流れを司法書士が解説
特定の株主からの取得
自己株式の取得は、会社法上の重要な行為の一つであり、特に「特定の株主からの取得」は、非上場会社において事業承継や経営権の整理など、様々な場面で活用されています。
一方で、手続には株主平等原則や債権者保護の観点から、一定の厳格なルールが設けられているため、慎重な対応が求められます。
本コラムでは、「特定の株主からの自己株式取得」について、司法書士の立場から実務的な流れや注意点を整理し、商業登記の視点も交えながら解説します。
自己株式とは?
自己株式とは、株式会社が取得・保有している自社の発行済株式のことをいいます。旧商法では原則として禁止されていた自己株式の保有は、現在の会社法においては一定の要件を満たせば認められており、特に中小企業では経営戦略上の重要な手段とされています。
自己株式取得の主な方法
会社法においては、自己株式の取得方法として以下の3つが想定されています。
取得方法 | 概要 |
---|---|
① 株主全員に申込機会を与える方式 | 公平性を担保する方法であり、特定の株主を対象とすることはできません。 |
② 市場取引・公開買付けによる取得 | 主に上場会社が対象。金融商品取引法の規制に留意が必要です。 |
③ 特定の株主からの取得 | 非上場会社で活用されることが多く、所定の株主総会決議等が必要です。 |
特定の株主から自己株式を取得する意義
特定の株主との関係性の清算、少数株主の整理、株式分散の防止など、非公開会社のガバナンス強化に資する手法です。特に以下のような場面で有効です。
・代表者交代に伴う旧経営陣の持株整理
・経営参加を希望しない相続人からの株式引受
・持株会社化に向けた株式収集
特定の株主からの取得の手続きの流れ
以下では、取締役会設置会社の非上場株式会社を前提に、標準的なスケジュールを表でまとめたうえで、各ステップを詳述します。
標準スケジュールの例(約2ヶ月)
日付 | 手続内容 | 補足事項 |
---|---|---|
7/3 | 株主総会招集通知・売主追加請求通知の発送 | 非公開会社は原則「株主総会の1週間前まで」に発送 |
7/9 | 売主追加請求期限 | 株主総会の5日前まで(会社法160条) |
7/14 | 株主総会開催(特別決議) | 取得株数・価格・対象株主を決議 |
7/22 | 取締役会決議 | 株価・取得条件・申込期限などを決議 |
7/25 | 特定株主への通知 | 書面で取得の内容と条件を明記 |
8/1 | 株主からの譲渡申込み | 書面で申込み株数を明示 |
8/10 | 申込期限・売買契約の成立 | 必要に応じて按分処理 |
8/14 | 株主名簿への反映 | 消却する場合は変更登記も必要 |
株主総会決議のポイント(会社法156条・160条)
・取得株式の数
・取得価格または算定方法
・取得対象期間(1年以内)
・特定株主から取得する旨とその氏名
この決議は「特別決議」で行う必要があり、議決権の3分の2以上の賛成が必要です。
取得後の処理と登記の要否
取得した株式は「金庫株」として保有することが可能ですが、消却する場合は資本金や発行済株式総数に変動があるため、2週間以内に変更登記が必要です(会社法915条)。
注意すべき「売主追加請求権」とは?
会社が特定の株主から株式を取得する際、他の株主が「自分の株も買い取ってほしい」と主張する権利です。この制度は、株主平等原則を保護するための制度であり、以下のようなケースでは排除可能です。
売主追加請求の排除が認められる主なケース | 根拠条文 |
---|---|
市場価格以下での取得 | 会社法161条 |
子会社からの取得 | 同163条 |
定款に明文規定がある場合 | 同164条 |
相続人等からの取得 | 同165条 |
商業登記との関係
取得した自己株式を消却した場合には、「発行済株式総数の変更」が生じるため、変更登記が必要です。
また、登記が不要な場合でも、株主名簿の整備・株主構成の管理など、内部記録の正確性が求められます。
手続きのご依頼・ご相談
特定の株主からの自己株式取得は、会社の資本政策や株主構成の調整において有効な手段です。しかし、法定の厳格な手続きを怠ると、無効リスクや株主からのクレームに発展しかねません。
とくに中小企業の経営者にとって、事業承継や親族間の株式整理の文脈で活用されることが多く、実務では重要なテーマといえるでしょう。
自己株式の取得をご検討の際は、会社法・商業登記に精通した司法書士または弁護士に相談することを強くおすすめします。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。