相続放棄後に預金を引き出す場合、法定単純承認を避けるために知っておくべきこと
相続放棄と単純承認
「相続放棄をしたのに、預金を引き出したらまずいって本当?」
「葬儀費用の支払いで使っただけ」
相続放棄後の預金の取り扱いについて、こうした疑問や不安を抱える方は少なくありません。
本記事では、相続放棄後にうっかりトラブルを招かないよう、預金引き出しに関する法律の基本から、引き出しても問題にならないケース、逆に危険なケースまで丁寧に解説します。
相続放棄後の預金引き出しは基本的にNG
相続放棄とは、相続人が被相続人の財産や借金を一切引き継がないと宣言する手続きです。
これにより、その人は“初めから相続人ではなかった”とみなされます。
ところが、放棄したはずの相続人が相続財産に手をつけると、法定単純承認とみなされ、相続放棄の効力が消滅するリスクがあります。
法定単純承認とは?
民法では、以下のような行為を行うと、相続人が自ら望んでいなくても相続を承認した(単純承認した)と見なされることがあります。これを法定単純承認といいます。
たとえば以下のような行為です。
・相続財産の一部でも処分する
・放棄後に財産を使ってしまう
・相続財産を隠したり、使い込んだりした場合 など
預金の引き出しも「財産の処分」にあたるため、無意識に単純承認が成立してしまうケースがあるのです。
相続放棄後に預金を引き出しても問題とならないケースとは?
ただし、すべての預金引き出しがNGというわけではありません。以下のような例外的に認められるケースもあります。
① 葬儀費用の支払い
相続人であれば、葬儀費用を被相続人の預金から支払うことは、必ずしも財産の処分とはみなされません。
社会的儀礼としての葬儀は必要性が高く、「保存行為」として例外的に認められる場合があります。
※ただし、過剰に高額な葬儀費用や仏具の購入などは、処分と判断される可能性もあるため要注意。
② 到来した債務の弁済
故人が生前に負っていた債務(すでに支払期限が到来しているもの)について、その支払いのために預金を引き出す行為も、「保存行為」に該当すると判断される可能性があります。
※ただし、ケースバイケースです。安易に判断せず、専門家への相談が重要です。
③ 預金を引き出したが使用・隠匿していない場合
「一時的に預金を引き出したが、使っておらず、明確に保管している」場合も、処分行為ではないと判断される可能性があります。
とはいえ、実際には使用意思がなかったことを客観的に証明するのは非常に難しく、リスクの高い行為です。
預金引き出しは発覚する
「引き出してもバレなければ大丈夫」
そう考えるのは危険です。実際には、次のようなルートで簡単に発覚します。
・他の相続人が金融機関に入出金履歴を照会
・弁護士が債権調査の一環で預金の動きを調べる
・相続財産管理人が調査過程で発見 など
一度でも引き出した事実が明らかになれば、後から補填しても取り消すことはできません。
相続放棄後に預金が必要な場合の正しい対処法
①仮払い制度の活用(上限150万円まで)
令和元年から導入された「預貯金の仮払制度」により、遺産分割協議が終わっていなくても、一定の条件のもとで預金を引き出せる制度があります。
【引き出し限度額】
預貯金残高 × 1/3 × 法定相続分
または150万円(いずれか少ない方)
葬儀費用や急な支出のときに便利な制度です。
※相続放棄予定の場合は、仮払制度の利用後に放棄すると単純承認になる可能性があるため注意が必要です。
②相続財産清算人の選任を申立てる
相続人全員が放棄した場合、家庭裁判所に申し立てることで「相続財産清算人」が選ばれます。
この清算人が、預金を含めた相続財産を整理・債権者への支払いを行います。
「相続人はいないけど、財産はきちんと処理したい」
そんなときにはこの制度を利用します。
相続放棄後のよくある誤解とQ&A
Q. 一度引き出した後に補填すれば大丈夫?
→一度でも処分にあたる行為をすれば、取り消せません。
Q. 病院代や施設費は払ってもいい?
→相続人が自腹で支払うなら問題ありませんが、被相続人の預金から支払うと処分に該当するおそれがあります。
Q. 預金を誤って引き出した場合は?
→すぐに使用せず、別に保管し、専門家へ相談を。事後の対応次第では争いを避けられることもあります。
手続きのご依頼・ご相談
相続放棄後に預金を引き出す場合、法定単純承認を避けるために知っておくべきことを解説しました。
相続放棄後は「絶対に預金に手をつけない」が原則です。
相続放棄後の預金引き出しは、思わぬ法的リスクを招く行為です。
特に、少しの油断や「これくらいなら大丈夫」という感覚が、後に大きなトラブルへ発展することもあります。
少しでも「これって引き出していいのかな?」と迷ったら、必ず専門家へご相談ください。
相続登記・会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。