種類株式を発行する会社が株式分割を行う際の注意点と登記手続き
種類株式と株式分割の登記実務
ベンチャー企業やスタートアップにおいて、資本政策の一環として株式分割を行う場面が増えています。とくに、種類株式を発行している会社では、通常の株式分割と比べて注意すべき点が多く存在します。
本記事では、種類株式を発行する株式会社が株式分割を行う際の法的手続きと登記実務について、司法書士の視点からポイントを解説します。
種類株式を発行している場合の株式分割とは?
株式会社では、株式を複数に分割することが可能であり(会社法183条)、1株の価格を引き下げて投資家の参入ハードルを下げる目的などで活用されます。
ただし、種類株式(例:A種優先株式、B種優先株式など)を発行している会社が株式分割を行う場合は、株式の種類ごとに慎重な検討と手続きが必要です。
株式分割の決定と手続きフロー
基本的な決定事項(会社法183条2項)
株式分割を行うには、原則として株主総会(または取締役会設置会社の場合は取締役会)の決議によって、次の事項を定めます。
・分割する株式の種類と分割割合
・基準日
・効力発生日
たとえば、「普通株式およびA種優先株式を1株につき100株に分割する」といった形で、全種類の株式に同一の分割を適用するケースが多くみられます。
種類株主総会は必要か?
株式分割が特定の種類株主に不利益を及ぼす可能性がある場合には、種類株主総会の承認が必要となることがあります(会社法322条)。
もっとも、定款で「分割に関して種類株主総会の決議を要しない」と定めている場合や、分割による影響が軽微である場合には省略も可能です。
しかし、法的なリスク回避の観点からは、少しでも疑義があるなら種類株主総会を開催することが無難といえるでしょう。
発行可能株式総数の見直しが必要な場合
株式分割によって、発行済株式数が発行可能株式総数を超えるおそれがある場合は、分割に先立って定款の変更(株主総会決議)が必要です。
さらに、種類株式がある場合は、発行可能種類株式総数の見直しも必要になり、種類株主総会の決議も併せて求められます(会社法322条1項1号)。
調整が必要な条項の例(定款・新株予約権)
株式分割にあたっては、種類株式や新株予約権の調整式に注意が必要です。たとえば、
・優先配当額・残余財産分配額の調整
・株式取得請求権の取得価額や交換比率の見直し
・新株予約権の行使価額や交付株式数の調整
これらは、調整条項に基づき自動的に変更されるのが一般的ですが、内容の確認や関係書類の整備が重要です。
登記手続きと必要書類
株式分割によって登記上変更が必要となるのは、主に以下の項目です。
・発行済株式の総数・種類・数
・発行可能株式総数・発行可能種類株式総数
・新株予約権の内容(対象株式数・行使価額など)
登記に必要な主な書類
・株主総会議事録(種類株主総会が必要な場合はその議事録も)
・株主リスト
・取締役会設置会社の場合:取締役会議事録
登録免許税は、原則として3万円(資本の変更を伴わない場合)です。
登記は、効力発生日から2週間以内に申請する必要があります(会社法915条1項)。
手続きのご依頼・ご相談
種類株式を発行する会社が株式分割を行う場合、法的手続きの複雑さや定款・新株予約権内容の調整、登記実務の煩雑さなど、通常の株式分割よりも多くの検討事項があります。
とくに資本政策や投資ラウンドの前後では、発行済株式数や新株予約権との整合性も重要になるため、会社法と登記の専門家である司法書士への相談が安心です。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。