債権譲渡・動産譲渡

動産・債権譲渡登記の改正へ、融資担保のルールが明確化

動産・債権譲渡登記制度の改正

会社の資金調達の選択肢が広がることを目的に、動産・債権譲渡登記制度の改正が進められています。
現在、日本では企業が金融機関から融資を受ける際、不動産や経営者保証に依存する傾向が強いですが、新たな改正により、在庫や設備、売掛金などの「動産」や「債権」も担保として活用しやすくなる見込みです。

この改正は、スタートアップや中小企業など、不動産などの大きな資産を持たない会社にとって、大きなメリットとなるでしょう。本コラムでは、今回の改正のポイントとその影響について詳しく解説します。

動産・債権譲渡登記とは?

動産・債権譲渡登記の役割
動産・債権譲渡登記とは、企業が動産(在庫や設備など)や債権(売掛金など)を担保にする際、その権利を公に証明するための制度です。
通常、不動産のように「登記簿」に記録されるものとは異なり、動産や債権は目に見える形で所有権が明確でないため、登記制度を利用して担保権の存在を示します。

現在の融資における担保の内訳を見ると、「動産・債権を含むその他担保」は全体の3%にとどまり、圧倒的に不動産や保証が重視されています。このため、企業の資金調達の選択肢が狭まり、特にスタートアップなどの成長企業にとっては障壁となっていました。

今回の改正のポイント

今回の改正は、動産・債権譲渡登記制度の明確化と実用性の向上を目的としており、以下のような点が変更されます。

①動産譲渡登記の存続期間が10年から20年に延長
現行の制度では、動産譲渡登記の存続期間は10年とされており、期間が経過すると再登記が必要でした。
これが20年に延長されることで、金融機関や企業の事務負担が軽減され、長期間にわたる安定した担保利用が可能になります。

②譲渡担保権者が登記事項に追加
従来の登記制度では、「担保が設定されている」という情報は分かっても、担保権者(誰が担保を持っているか)が不明瞭でした。
今回の改正により、担保権者の氏名(名称)が登記情報として記載されることで、第三者がより容易に担保権の実態を確認できるようになります。
この変更により、金融機関が融資判断を行う際のリスクが低減し、担保としての信頼性が向上します。

③譲渡担保権者の変更登記が可能に
現在の制度では、担保権が譲渡された場合、新たな担保権者が登記に反映されず、権利関係が不透明になるケースがありました。
改正後は、担保権者が変更された際に変更登記が可能となり、取引の透明性が向上します。

④競合担保登記目録の新設
新たに「競合担保登記目録」が導入されることで、同じ資産に対して複数の担保権が設定されている場合の関係性が明確になります。
これにより、金融機関が融資判断を行う際に担保の状況を把握しやすくなり、動産や債権を担保とする融資の促進につながることが期待されます。

今回の改正による影響

スタートアップ・中小企業の資金調達が容易に
現行の融資制度では、不動産を所有しない企業は信用力が低く見られがちで、融資を受ける際に経営者保証が求められることが多くあります。
今回の改正により、在庫や売掛金を担保にしやすくなることで、スタートアップや中小企業も資金調達の選択肢を広げることができます。

金融機関の融資判断の明確化
金融機関にとっても、担保権者が登記されることで担保の所在が明確になり、貸し倒れリスクの低減が期待されます。
競合担保登記目録の導入により、複数の担保権が設定されている場合でも、どの権利が優先されるかの判断がしやすくなるため、より円滑な融資実行につながることが期待されます。

倒産時の労働者保護
企業が倒産した際、在庫や売掛金などの担保がすべて金融機関に回収されてしまうと、労働者の未払い賃金の支払いが困難になるケースがありました。
改正後は、担保権者が在庫などの担保を実行する際に、一定額を破産財団に支払う仕組みが整備されるため、労働者の保護が強化されます。

今後の動向と実務への影響

今回の改正は、2025年の通常国会で法案が提出される見通しです。
動産・債権担保の活用が進むことで、金融機関の融資スタイルや企業の資金調達方法にも変化が生じると考えられます。

会社が準備すべきこと

自社の資産(動産・債権)の棚卸し
→ 今後、動産や売掛金を担保にする融資が増える可能性があるため、事前に自社資産を整理しておくことが重要。

動産・債権担保に関する契約の見直し
→ 企業間の取引や金融機関との契約において、新しい登記制度に適した形に調整が必要。

金融機関が対応すべきこと

動産・債権担保融資の評価基準を明確化
→ 今後、融資の際に動産や債権を担保とするケースが増えるため、評価方法やリスク管理の見直しが必要。

競合担保登記目録を活用したリスク管理
→ 複数の担保権が設定される可能性があるため、他の金融機関との権利関係を適切に把握することが求められる。

手続きのご依頼・ご相談

動産・債権譲渡登記の改正は、日本の融資慣行を変革し、中小企業やスタートアップの資金調達環境を大きく改善する可能性を秘めています。
登記手続きに関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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