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会社法における取締役の責任免除と違反事例の解説

取締役の責任免除に関する規定

取締役は、会社経営の重要な役割を担う者として、「善管注意義務」および「忠実義務」を負います。これらの義務を怠った場合、会社や第三者に対する損害賠償責任が生じることがあります。
しかし、経営判断にはリスクが伴うため、会社法では一定の条件下で取締役の責任を免除する規定も設けられています。本記事では、取締役の責任免除に関する規定と、実際の違反事例を交えて解説します。

取締役の責任とは

(1) 善管注意義務と忠実義務
会社法330条 により、取締役は会社との関係において 委任契約 に基づく義務を負います。これには、民法644条 に基づく「善良な管理者の注意義務(善管注意義務)」が含まれます。取締役は、一般的な経営者として合理的な判断を下し、会社に損害を与えないようにする責任を負います。
また、会社法355条 では「忠実義務」が規定されており、取締役は会社の利益のために職務を遂行しなければなりません。

取締役の義務違反と責任追及の事例

(1) 内部統制システムの構築義務違反(東芝不正会計事件)
東芝の粉飾決算問題では、取締役が適切な監督を行わず、有価証券報告書に虚偽記載がされました。裁判所は、取締役の善管注意義務違反を認め、損害賠償責任を命じました。

(2) 競業取引による利益相反(パン製造会社の競業問題)
あるパン製造会社の取締役が、取締役会の承認なしに個人で同業の会社を設立し、取締役として関与したことが競業避止義務違反とされました。会社法356条に基づき、会社は取締役に対して損害賠償を請求しました。

(3) 取締役の利益相反取引(積水ハウス地面師事件)
積水ハウスが地面師に騙され、55億円を詐取された事件では、取締役の善管注意義務違反が問われました。取引を適切に監督しなかった責任を追及する訴訟が提起されています。

取締役の責任免除に関する規定

(1) 責任の全部免除(総株主の同意)
会社法424条により、総株主の同意があれば、取締役の損害賠償責任を全額免除できます。これは、非公開会社や親会社が100%株主の完全子会社などで活用されることがあります。

(2) 責任の一部免除(株主総会決議・取締役会決議)
会社法425条に基づき、取締役が 善意かつ重大な過失がない場合 、以下の限度額を上限として 株主総会決議により一部免除 できます。

・代表取締役:役員報酬年間相当額×6
・取締役(業務執行):役員報酬年間相当額×4
・監査役など:役員報酬年間相当額×2

また、会社法426条 により、監査役設置会社などでは 取締役会決議 での免除も可能です(定款の定めが必要)。

(3) 責任限定契約(非業務執行取締役向け)
会社法427条に基づき、業務を執行しない取締役(社外取締役など) については、責任の上限を定めた契約を締結することができます。

(4) 会社補償契約・D&O保険
会社は、取締役の損害賠償責任に備え、会社補償契約(会社法430条の2)や、役員等賠償責任保険(D&O保険)(会社法430条の3)を活用することが可能です。

取締役は、善管注意義務や忠実義務を負い、これを怠ると損害賠償責任を負う可能性があります。
ただし、会社法では、経営判断の自由を確保し、リスクをとった経営を可能にするため、一定の条件下で 責任免除制度 が設けられています。

また、企業側も、取締役の責任を軽減するために D&O保険や会社補償契約などのリスクマネジメントを講じることが重要です。
取締役として職務を遂行するうえでは、適切な判断を行うとともに、必要に応じて 弁護士や専門家の意見を求め、事前に適切な手続きを取ること で、責任を回避し、適法な経営を行うことが求められます。

手続きのご依頼・ご相談

会社法における取締役の責任免除と違反事例について解説しました。
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本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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