清算結了 / 解散・清算

清算手続における「清算に係る費用」とは?清算事務及び決算報告書に記載する範囲と注意点

清算人の職務

事業活動を終了し、会社を解散後、最終的に法人格の消滅をさせるためには、清算手続を進める必要があります。清算人が行うべき業務には、債務の弁済、資産の換価、残余財産の分配など多岐にわたり、清算事務の過程で発生する費用の計上も重要な課題の一つです。特に、「清算に係る費用の支払等による費用の額」という項目は、清算手続の透明性や関係者への信頼性を確保するために欠かせない情報です。しかし、「具体的に何が含まれるのか?」という疑問を抱える方も多いでしょう。本コラムでは、「清算に係る費用」の具体的な範囲、実務的な判断基準、手続の注意点を、実務事例を交えながら詳しく解説します。

1. 清算に係る費用とは?法的背景から考えるその意味

清算に係る費用とは、清算手続を遂行する過程で必要不可欠な支出を指します。この概念は、会社法を基にした清算人の職務に由来します。

会社法における清算人の役割
会社法では、清算人の職務として次のような事項が定められています。
・債務の弁済
・資産の換価
・残余財産の分配
・その他清算に必要な一切の業務

これらの職務を遂行するために発生する費用が「清算に係る費用」として計上されるのです。

清算結了のプロセス

清算人は、清算期間中に行ったすべての業務をまとめ、「清算事務および決算報告書」として最終的に株主総会に提出します。この報告書には、以下の内容が含まれます。

・清算期間中に行った主要な清算業務の詳細
・債務の弁済状況
・資産の換価状況と結果
・残余財産の分配状況
・清算に係る費用の総額

株主総会でこの報告書が承認されることにより、清算手続は完了します。そして、清算結了登記が行われ、会社は正式に消滅します。

清算事務及び決算報告書(記載例)

清算事務及び決算報告書の記載例は下記のとおり

清算事務及び決算報告書

1.令和●年●月●日の官報により、会社債権者に対して債権申出の公告を行うとともに、知れている債権者に対しては各別に催告を行った。
2.令和●年●月●日、会社財産の現況を調査のうえ、財産目録及び貸借対照表を作成し、令和●年●月●日開催の臨時株主総会においてその承認を受けた。
3.令和●年●月●日から令和●年●月●日までの期間内に取り立てた債権の総額は、金【●】円である。
4.債務の弁済、清算に係る費用の支払等による費用の額は、金【●】円である。
5.現在の残余財産の額は、金【●】円である。
6.令和●年●月●日、清算換価実収額金【●】円を次のとおり株主に分配した。
  1株当たりの分配額   金【●】円
  (発行済株式総数 ●株、分配総額金【●】円)

 上記のとおり清算が結了したことを報告する。

   令和●年●月●日

(本 店)東京都千代田区●●●●
(商 号)●●●●株式会社
(代表者)代表清算人 ●●●●


2. 清算に係る費用に含まれる具体例

(1) 人件費
・清算人の報酬
・清算事務に従事する従業員の給与や退職金
・清算中に臨時雇用されたスタッフの給与

(2) 専門家報酬
清算手続を円滑に進めるために依頼した専門家への報酬が該当します。
・弁護士:債権者対応や法的問題への対処
・司法書士:解散登記や清算結了登記
・税理士・会計士:税務申告や決算報告書の作成

(3) 官公庁関連費用
・登記費用(登録免許税)
・官報公告費用(債権者保護手続の公告)
・証明書類の取得費用

(4) 雑損失
・資産売却損(清算中の換価手続に関連する損失)
・清算過程で発生した費用など

(5) その他清算事務に必要な費用
・交通費、通信費、事務用品費
・会議費(清算人や関係者間の打ち合わせ)

3. 含めるべきでない費用とは?清算費用の線引き

「清算に係る費用」として含めるべきでないものも存在します。以下に該当する費用は慎重に扱うべきです。

(1) 過去の事業活動に起因する費用
清算開始前に発生した通常の事業活動に関する費用は「清算に係る費用」に含めません。
例:事業終了前の取引に基づく未払金の弁済
※ただし過去の事業活動に起因するものであっても、清算の過程で確定した損失は清算費用に計上される場合が多い。

(2) 清算結了後の支出
清算が完了した後に発生した費用は「清算に係る費用」として計上されません。

(3) 個人的な経費や非関連費用
清算手続に直接関係のない支出(清算人の個人的な支出など)はもちろん対象外です。

4. 清算費用の実務的判断ポイント

清算費用の計上に関する判断は以下(1)~(3)で確認・判定いただくと良いでしょう。

(1) 清算手続に直接関連しているか(関連性が高ければ該当)
費用が清算手続を遂行するために必要だったかを確認します。たとえば、清算中に発生した資産売却損は清算と密接に関連するため費用として含められますが、過去の損失補填は対象外です。

(2) 発生時期が清算期間中であるか(清算開始後であれば該当)
清算に係る費用は清算開始後から清算結了までの期間内に発生したものに限ります。過去や未来の支出を含めないよう注意してください。

(3) 支出の目的が清算業務の遂行であるか(目的が清算に必要であれば該当)
たとえ発生時期が清算期間中であったとしても、その支出が清算手続と直接関係していない場合は、「清算に係る費用」として計上することは適切ではありません。
(例:過去の事業活動に伴う支出(たとえば、未払いの仕入代金や以前の取引に起因する損失補填)は、清算手続の遂行には直接関係しないため該当しません。)

5. 実務事例で見る「清算に係る費用」の扱い

事例1:清算人の報酬
背景:清算中に清算人が弁護士を兼任しており、一定額の報酬を請求。
対応:清算人としての報酬であり、清算業務の遂行に直接関連するため「清算に係る費用」に計上。

事例2:事務用品費
背景:清算中に関係書類の管理・作成のため、ファイルやプリンタ用紙を購入。
対応:清算事務に必要な消耗品費であるため、費用として計上。

事例3:過去の取引に伴う未払金
背景:事業終了前に発生した未払取引先への支払い。
対応:事業活動に関連する支出であり、「清算に係る費用」には含まない。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、清算手続における「清算に係る費用」と清算事務及び決算報告書に記載する範囲と注意点について解説しました。
「清算に係る費用」とは、会社の清算手続を遂行するために必要な支出を指します。この費用を正確に計上し、透明性を保つことは、株主や債権者との信頼関係を維持し、スムーズな清算手続を実現するうえで欠かせません。
特に注意すべきは、清算業務との関連性、費用発生時期、そして計上の透明性です。不明点があれば、弁護士や税理士などの専門家の助言を受けることを検討し、確実な手続を進めましょう。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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