組織再編 / 解散・清算

黒字企業、解散と合併どちらを選択すべきか?ポイント解説

解散と合併どちらを選択すべきか?ポイント解説

日本の企業環境において、黒字であるにもかかわらず、将来の経営方針として「解散」または「合併」を検討するケースは珍しくありません。企業の持続可能性や経営資源の有効活用といった視点から、どちらの選択が適切なのかを考える必要があります。本コラムは、解散と合併を検討する際のポイントなどを解説いたします。

2つの選択肢「解散」「合併」

検討のポイントとしては、対象会社が黒字企業であることを踏まえると、長期的に資産を活用する観点からは事業を関連会社等に引き継ぐ吸収合併による手続きが適しています。
一方で、短期的な整理を目的とする場合には、会社を解散し、現金資産を株主である親会社や個人等に分配する方法が適していると考えられます。ただしいずれの場合においても税務負担への注意が必要です。それぞれ留意すべき点を解説します。

黒字企業の解散について

黒字企業が解散する場合、法務・税務・会計・労務の観点で留意すべき点があります。

(1) 税務面での留意点

• 解散後、預貯金などの残余財産が発生した場合、それを株主(親会社やオーナー)に分配します。この際、「残余財産分配金」として株主に所得税が課税される場合があります。
課税方法
•法人が株主の場合、分配金はその法人の収益となり、法人税が課されます。
•個人が株主の場合、配当所得として所得税・住民税が課されます。
•解散時および清算終了時には、法人税の確定申告が必要です。
•消費税や地方税などの関連税務申告も漏れなく対応する必要があります。。

(2) 解散清算時の会計面での留意点

• 保有資産(不動産、設備など)を売却する場合、時価評価額に基づく損益計算が必要です。
• 清算手続き中に利益が発生した場合、法人税が課される可能性があります。
• 未払いの債務(買掛金や未払費用など)をすべて精算します。

(3) 法務・労務・関係者・取引先等への影響等での留意点

• 解散による影響を最小限にするため、取引先や関係者に事前に説明し、了承を得る必要があります。
• 法律上、官報に「解散公告」を行い、債権者からの請求を受け付ける期間を設けることが義務付けられています(通常2ヶ月以上)。解散清算手続きが長引くと、余分なコスト(人件費や事務費)が発生するため、早期完了を目指す必要があります。
• 従業員がいなくなる場合、社会保険・労働保険の脱退手続きを行います。

黒字企業の吸収合併について

黒字企業同士が吸収合併を行う際には、法務、税務、会計、労務の観点で留意すべき点があります。

(1) 税務面での留意点

• 合併により引き継ぐ資産や負債がある場合、合併後の法人での資産評価額の引き継ぎが重要です。
• 特に、適格合併の要件を満たすかどうかを検討する必要があります。
※適格合併とは、税制上の優遇措置が適用される合併で、資産や負債を時価ではなく簿価で引き継ぐことが可能です。
適格合併の要件には、株式保有割合や事業継続の意図が関係します。
適格合併の主な条件
・合併後も事業を継続する。
・合併会社間に一定の株式保有関係がある。
・合併による株式交付が適切に行われる。

項目 適格合併 非適格合併
資産評価 簿価で引き継ぐ 時価で引き継ぐ
課税 譲渡益課税なし 譲渡益課税あり
繰越欠損金 引き継ぎ可能 引き継ぎ不可
主な条件 株式保有関係、事業継続性、株式交付の適正性などを満たす 要件を満たさない場合

• 繰越欠損金の引き継ぎ
・消滅会社が繰越欠損金を保有している場合、その引き継ぎには適格合併の条件を満たす必要があります。
・条件を満たさない場合、繰越欠損金は消滅するため、事前確認が必要。

(2) 会計面での留意点

• 合併後の会計処理において、資産や負債の引き継ぎが適切に行われることが重要です。
• のれんの計上や、過大評価・過小評価を避けるための適切な評価が求められます。

(3) 労務面での留意点

• 吸収合併に伴い、従業員の雇用契約や就業規則の変更が必要になる場合があります。

(4) 法務面での留意点

• トラブル回避のため事前に関係する取引先や金融機関への説明・調整が重要
• 消滅会社の従業員の雇用契約や消滅会社の契約関係が引き継がれる
• 消滅会社が締結していた契約内容を要確認(合併等の組織再編事由が生じた場合は契約が解除となる定めがある契約も多く存在する)
• 法律上、官報に「解散公告」を行い、債権者からの請求を受け付ける期間を設けることが義務付けられています(通常1ヶ月以上)。

解散と吸収合併の比較

解散のメリットは、シンプルな手続きで会社を終了できる点でしょう。一方でデメリットは残余財産分配に税金が発生する可能性があるというところです。
一方で吸収合併のメリットは、資産を引き継ぎつつ事業を整理することが可能な点になります。一方デメリットは適格合併の検討が複雑になるところです。

検討ポイントと注意点

• 短期的に整理したい場合: 会社を解散して現金資産を親会社に分配する方法が適しています。ただし、税務負担に注意が必要。
• 長期的に資産を活用したい場合: 吸収合併を検討し、親会社や関連法人での資産活用を図ることが可能です。特に適格合併を活用することで税務負担を軽減できます。
• 他の専門家の活用: 解散や合併は、税務・法務・労務の観点で複雑な問題が絡みます。特に税務については税理士等の専門家の意見を参考にご検討下さい。

手続きのご依頼・ご相談

本日は黒字企業が解散か吸収合併かを選択する際に検討すべきポイントを解説いたしました。
会社法人(商業登記)に関するご依頼・ご相談は司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

債務整理・商業登記全般・組織再編・ファンド組成などの業務等を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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