反対株主の買取請求権とは何か?組織再編や事業譲渡で株主が会社に株式の買取りを求められる場面を整理
反対株主の買取請求権
会社が大きな意思決定をするとき、すべての株主がその方針に賛成するとは限りません。
とくに、組織再編や事業譲渡、株式の内容変更のように、会社の基礎に影響する行為が行われる場面では、反対する株主にとって「そのまま株主で居続けること」が困難になることがあります。
そのような場合に問題となるのが、反対株主の買取請求権です。
買取請求権は、単に「反対だから会社に買い取らせることができる」という制度ではありません。
会社の重要な再編行為と、少数株主の保護とをどのように調整するかという観点から置かれている制度です。
本稿では前編として、まず
・買取請求権とはどのような権利か
・どの場面で認められるのか
・逆に、どの場面では認められないのか
・吸収合併で行使できる株主は誰か
を整理します。

買取請求権とは何か
買取請求権とは、会社の基礎に変更等が行われる場合に、その変更等に賛成できない株主が、会社に対して自己の株式を公正な価格で買い取るよう求める権利をいいます。
この制度の中心にあるのは、会社の重要な変化に反対する少数株主に対し、経済的な救済の道を残すという考え方です。
多数決により会社の意思決定が行われる以上、反対した株主が常に会社の方針を止められるわけではありません。そこで、反対株主には「投下資本を回収して退出する機会」が与えられています。
もっとも、この制度は少数株主の退出機会を保障するだけではありません。
買取請求権が行使されると、会社は株式の買取りのために会社財産を外部へ流出させることになります。
したがって、会社にとっても一定の経済的負担となり、結果として、多数派株主や経営陣に対する牽制機能も果たします。
つまり、買取請求権は、反対株主の経済的保護と会社の重要行為に対する多数派の抑制という二つの側面を持つ制度といえます。
どのような場面で買取請求権が認められるのか
買取請求権が認められる場面は多岐にわたりますが、整理すると、主として次の4つに分けることができます。
(1)株式の内容が変わる場面
まず、株式の内容自体が変わる場面です。
たとえば、発行する株式について譲渡制限に関する定めを新たに設ける場合や、種類株式について譲渡制限や全部取得条項を設ける場合には、株主の地位に直接影響します。
株式が自由に譲渡できることを前提に投資していた株主にとって、後から譲渡制限が付されることは、保有株式の性質を大きく変える出来事です。
そのため、会社法はこのような場面で買取請求権を認めています。
(2)種類株主の利益が損なわれるおそれがある場面
次に、種類株主の利益保護のために買取請求権が認められる場面があります。
株式の併合・分割、株式無償割当て、単元株式数の変更、募集株式や募集新株予約権の株主割当て、新株予約権の無償割当てなどを行う場合であって、種類株主に損害を及ぼすおそれがあるにもかかわらず、定款で種類株主総会を不要としているケースです。
この場面では、本来なら種類株主総会で意見を反映できるはずのところ、それが排除されているため、代わりに買取請求権による保護が用意されています。
(3)事業譲渡等の場面
事業譲渡等も、買取請求権が問題となる典型場面です。会社法上、次のような行為について買取請求権が認められています。
・事業の全部の譲渡
・事業の重要な一部の譲渡
・事業全部の譲受け
・事業全部の賃貸
・事業全部の経営委任
・事業全部を共通にする契約その他これに準ずる契約の締結・変更・解約
これらはいずれも、会社の事業構造や収益基盤に大きな影響を与え得る行為です。
株主にとっては、投資対象である会社の実質が変わる場面といえるため、買取請求権が認められています。
(4)組織再編の場面
さらに、吸収合併、吸収分割、株式交換、新設合併、新設分割、株式移転といった組織再編も、買取請求権の中心的な場面です。
もっとも、どの会社のどの立場の株主に認められるかは一律ではありません。
消滅会社・分割会社・完全子会社側の株主だけでなく、存続会社・承継会社・完全親会社側の株主にも認められる場面があります。ここは実務上、条文ごとに丁寧に整理する必要があります。
なぜすべての再編で認められるわけではないのか
買取請求権は、会社の重要行為があれば常に認められるわけではありません。
会社法は、株主にとって従来の地位を継続することが不可能または困難となる場面に絞って、買取請求権を認めています。
そのため、同じ事業譲渡でも、事業の重要な一部の譲渡に当たらない軽微な譲渡については、買取請求権は付与されません。
また、組織再編でも、株主への影響が小さいと評価される場面では、買取請求権が排除されています。
この点を理解しておかないと、「組織再編だから当然に買取請求権がある」という誤解につながります。
買取請求権が認められない代表例
(1)総株主の同意が必要な組織再編
まず、総株主の同意が必要な組織再編では、買取請求権は認められません。
理由は明快です。総株主の同意が必要である以上、反対株主が存在する時点でその再編自体が成立しないからです。
このような場合にまで買取請求権を別途認める意味はありません。
(2)簡易分割における分割会社の株主
次に、簡易吸収分割・簡易新設分割における分割会社の株主についても、買取請求権は付与されません。
これは、簡易分割が株主に与える影響が比較的軽微であると考えられているためです。
もっとも、ここは一見すると分かりにくい論点です。
分割会社が不利な条件で事業を移転すれば、分割会社やその株主に損害が生じる可能性はあります。
それでもなお、簡易分割ではその影響が軽微な範囲にとどまると評価されるため、買取請求権を与えるまでの必要はないと整理されています。
反対に、承継会社側の株主については、事業承継によって新たな権利義務を引き受け、既存事業の利益を損なう可能性があるため、買取請求権を検討すべき場面が残ります。
この違いは、再編においてどの会社の株主が、どのような不利益を受けるおそれがあるのかという観点から理解すると整理しやすくなります。
吸収合併で買取請求権を行使できる株主とは誰か
買取請求権が認められる場面に該当しても、誰でも行使できるわけではありません。
吸収合併を例にすると、行使できる株主は、株主総会決議の要否によって異なります。
(1)株主総会決議を要する場合
株主総会決議を要する場合には、原則として次の株主が対象です。
・事前に吸収合併に反対する旨を会社に通知したうえで
・当該株主総会において反対の議決権を行使した株主
加えて、株主総会で議決権を行使できない株主にも買取請求権が認められます。
ここで重要なのは、単に総会で反対しただけでは足りず、事前の反対通知が必要だという点です。
この事前通知には、会社に対し「買取請求権が行使される可能性がある」と認識させ、議案提出を再考する機会を与える意味があります。
また、議決権を行使できない株主についても、反対を表明する機会自体が与えられていない以上、保護の必要があるため、買取請求権が認められています。
(2)種類株主総会が必要な場合
組織再編について種類株主総会の決議が必要な場合には、その種類株主総会で議決権を行使できる株主についても、
同様に、種類株主総会に先立つ反対通知と種類株主総会での反対が必要になります。
(3)株主総会決議を要しない場合
一方、簡易手続や略式手続などにより株主総会決議を要しない場合には、株主は総会の場で反対の意思表示をすることができません。
そのため、この場合はすべての株主に買取請求権の行使が認められます。
ただし、前述のとおり、簡易分割における分割会社の株主は例外です。
また、簡易・略式の要件を満たしていても、実際には株主総会が開催された場合の扱いについては議論があります。この点は後編以降の実務運用にもつながる重要な論点です。
本コラムのまとめ
買取請求権は、会社の重要行為に反対する株主に退出の機会を与える制度であり、少数株主の経済的保護という意味を持ちます。
同時に、会社に資金流出の負担を伴わせることで、多数派による一方的な意思決定に対する牽制にもなっています。
そして実務上は、次の点を押さえることが重要です。
・買取請求権は、会社の基礎的変更に関わる場面で認められる
・ただし、すべての組織再編や事業譲渡に当然に付与されるわけではない
・総株主同意が必要な再編や、簡易分割の分割会社の株主など、認められない場面もある
・吸収合併で行使できる株主は、事前通知・反対議決権行使の要件を満たす必要がある
・株主総会決議を要しない場合には、原則として株主全員が対象となる
後編では、ここからさらに踏み込んで、
・買取請求に関する通知は何をいつまでに行うのか
・株主はいつまでに請求しなければならないのか
・会社は価格協議や裁判所申立てにどう対応するのか
を整理します。
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