代表取締役の予選はどこまで許されるのか?決議時と効力発生時で取締役会メンバーが変わる場合の実務整理
代表取締役の予選
近年、代表取締役の予選(将来効力発生を予定した選定決議)に関するご相談が増えています。
特に問題となるのは、予選決議時点の取締役会構成と効力発生時点の取締役会構成が異なる場合に、就任の効力が認められるのかという点です。
本稿では、実務で頻出する3つの典型事例をもとに、会社法上の考え方と商業登記実務の整理を行います。

事例①既存取締役を代表取締役に予選する場合
事例
・取締役ABC(代表取締役A)
・Aが3月末で辞任予定
・3月20日の取締役会でBを4月1日付代表取締役に予選
・同時にDを4月1日付取締役として株主総会で選任予定
4月1日時点の取締役はBCD。
予選決議時点の取締役はABC。
この場合、Bの代表取締役就任は有効でしょうか。
結論
原則として有効と考えられます。
理由の整理
・予選決議時、Aは適法な取締役であり決議参加資格を有している
・いったん有効に成立した決議は、その後の構成変動により遡及的に無効とはならない
本事例は、機関構成変更の問題ではなく、3月20日時点でBを正式に選定することも可能であった事例です。
※既存の取締役Bを代表取締役に選んでいるのがポイント、ここでいまだ取締役でないDを代表取締役に予選することは当然できない。
事例②定時株主総会をまたぐ代表取締役の予選
典型事例
・3月決算会社
・6月30日定時株主総会で取締役全員が任期満了
・6月1日の決算取締役会で
全員重任予定と決議
重任後の代表取締役をAと予選
この登記は受理されるか。
実務のポイント
過去の先例では、取締役が全員再選されることを条件として改選前に代表取締役を予選することは許容されています。
ただし、重要なのは以下の点です。
| 観点 | 実務上の整理 |
|---|---|
| 取締役に変動があるか | 全員重任なら許容方向 |
| 予選から効力発生までの期間 | 合理的範囲内であること |
| 条件の明確性 | 再選を条件とする構造であること |
会社法下では、任期は「定時株主総会終結時」とされるのが通常であり、再選と重任の間の時間差は短時間であるケースがほとんどです。そのため、再選を条件とする代表取締役の予選は、原則として実務上許容されていると整理できます。
また、松井信憲著『商業登記ハンドブック』においても、「株主総会において取締役を予選した上、改選前の取締役が新代表取締役を予選することについては、株主総会において取締役が全員再選されて取締役に変動を生じない場合には、登記実務上許容されている」と説明されています。
つまり、予選時と効力発生時の取締役のメンバーに変更がなく、予選時と効力発生時の期間が短時間であれば、代表取締役を予選することが可能と整理できます。
もっとも、登記所の運用が慎重化している現状では、事前相談を行うのが安全策です。
①と②は、一見矛盾して見える?
ここまで読んで、事例①はメンバーが変わっても有効と言っているのに、事例②ではメンバーが変わらないことが前提となっているのはなぜか?と感じられた方も多いのではないでしょうか。
事例②は重任が問題となっていますので、確かに、どちらも代表取締役の予選でありながら、判断の軸が違うように見えます。
しかし、両者は構造が根本的に異なります。
上記事例①は今の権限で完結している
①の事例においては、予選決議時点で、取締役会は適法に構成されていて、その取締役会が、現任取締役の中から代表取締役を選定しています。
ただし、効力発生時期を将来日にしているだけという構造です。
つまり、代表取締役の選任そのものは、決議時点で完結しているのです。
その後に取締役が入れ替わっても、すでに適法に成立した決議が遡って無効になるわけではない、という整理になります。
ここでは、「次期体制を誰が決めているか」という問題は生じていません。
上記事例②は次期体制を条件付きで決めている
これに対し上記事例②は、定時株主総会で全員重任されることを前提に、重任後の代表取締役をあらかじめ決めているという構造です。
ここで問題になるのは、まだ確定していない次期の取締役体制の代表取締役を、現体制が決めてよいのかという点です。
事例②では、株主総会で本当に重任されるかどうかが確定していない段階で、将来の代表取締役を決めています。
そのため、単なる「将来効力発生の決議」ではなく、条件付決議としての検討が必要になるのです。
上記①および②のちがいを一言で言えば
上記事例①は「今ある権限を将来日に効力発生させただけ」
上記事例②は「まだ発生していない次期体制を前提に決めている」
この違いが、両者の整理を分けています。
したがって、上記①の事例と②の事例は矛盾しているのではなく、問題となっている次元が異なるのです。
この差を意識して読むと、代表取締役の予選問題は、単なる期間の長短の問題ではなく、決議の権限構造の問題であることが理解できます。
事例③新任取締役を代表取締役にしたい場合
事例
・Aが辞任
・後任Dを4月1日付で取締役に選任
・同時に代表取締役に就任させたい
・4月1日の取締役会開催が困難
この場合、どのような方法があるでしょうか。
方法① 4月1日に取締役会を開催する
原則形です。
ただし、遠隔地取締役がいる場合など、実務上困難なこともあります。
方法② 書面決議(会社法370条)
定款に規定があることを前提に可能ですが、
・提案日
・同意日
・効力発生日
の整理が必要で、日付管理を誤ると無効リスクが生じます。
方法③ 定款活用型
近年増えているのが、代表取締役を株主総会でも選任できる旨を定款に定める方法です。
この方法であれば、
・臨時株主総会でDを取締役に予選
・同時に代表取締役にも予選
とし、4月1日午前0時から新体制をスタートできます。
機動的な役員体制移行が可能となるため、実務上は合理的な選択肢です。
実務整理、代表取締役予選の判断軸
| 判断ポイント | 確認事項 |
|---|---|
| 決議時の権限 | 決議時に選任権限を有する者か |
| 条件の明確性 | 何を条件としているか |
| 人的同一性 | 重任か新任か |
| 期間の合理性 | 予選から効力発生までの期間 |
| 登記リスク | 管轄運用・補正傾向 |
本コラムのまとめ
代表取締役の予選は、
・条件付決議として整理できるか
・選任権限の所在が明確か
・実務上の合理性があるか
という視点で判断されます。
単なる形式論ではなく、決議構造の設計段階での検討が不可欠です。
手続きのご依頼・ご相談
本日は、代表取締役の予選はどこまで許されるのか?決議時と効力発生時で取締役会メンバーが変わる場合の実務整理について解説しました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。




