株式を質入れする際に、株主・会社が負うリスクとは?株式質権設定を安易に担保に使ってはいけない理由
株式質権設定
事業資金の調達にあたり、株主が自己の保有株式を金融機関へ担保として提供する、いわゆる株式質が用いられることがあります。
とくに中小企業やスタートアップでは、
「株式だから不動産担保より柔軟だろう」
「会社はそのままだから影響は限定的だろう」
と考えられがちですが、株式質には経営権に直結する重大なリスクが内在しています。
本稿では、株式を質入れする場合に、株主側・会社側の双方が負う法的・実務的リスクを整理します。

株式質の基本構造(株券不発行会社が前提)
現在の株式会社の多くは株券不発行会社であり、この場合、株式質は「登録質」によって設定されます。
つまり、
・株主名簿に
・質権設定の事実
・質権者の氏名・住所
が記載され、会社としても質権者の存在を明確に把握する状態になります。
この点で、株式質は「株主と金融機関だけの問題」にとどまらず、
会社実務に直接影響する担保であることをまず押さえる必要があります。
最大のリスクは流質契約による経営権喪失
(1)流質契約とは何か
株式質の設定と同時に、金融機関から流質契約を求められることがあります。
流質契約とは、
・債務不履行があった場合
・質権の実行手続を経ず
・株式をそのまま質権者に帰属させる
という内容の契約です。
結果として、わずかな残債務を理由に、株式を一気に失う可能性があります。
(2)清算金が支払われないリスク
流質契約では、原則として、
・株式の時価
・残存債務額
の差額について、質権者が清算金を支払う義務はありません。
そのため、
・債務残高はわずか
・しかし会社価値は高い
という状況であっても、株式を失い、経営権を完全に喪失する結果になり得ます。
(3)「商行為だから有効」という点の見落とし
一般論として、流質契約は質権者の暴利行為につながるとして制限されます。
しかし、商行為によって生じた債権を担保する株式質では、
流質契約が有効とされる場面がある点は、実務上の重大な注意点です。
流質契約がなくても避けられない結論
「では、流質契約を締結しなければ安全か」というと、必ずしもそうではありません。
流質契約が存在しなくても、
・債務不履行があれば
・質権は実行され
・株式は競売等により第三者へ移転
します。
結果として、
・経営権を失う
・想定外の第三者が株主になる
という点では、結論は同じです。
株主名簿への記載という実務的デメリット
株式質が設定されると、
・株主名簿に
・質権設定の事実
・金融機関名
が記載されます。
これにより、
・株主名簿の提出を求められた際
・M&Aや投資のデューデリジェンス
・取引先・金融機関との関係
において、財務状況や資金繰りへの懸念を与える可能性があります。
「担保に出している事実」そのものが、会社の信用判断に影響する点は軽視できません。
剰余金の配当をめぐるリスク
株券不発行会社における登録質では、一定の条件を満たすと、
剰余金の配当を質権者が直接受領する構造になります。
ポイントは、
・被担保債権の弁済期が到来しているか
・質権者が会社に対して請求しているか
という点です。
会社としては、
・株主に支払うのか
・質権者に支払うのか
を、法令に従って慎重に判断しなければなりません。
誤った支払をすると、二重払いのリスクを負うことになります。
株式譲渡制限との関係
(1)単独株主会社の場合
単独株主が自己の株式に質権を設定していた場合、
その株式が質権実行により移転するときは、株式譲渡承認を要しないとされています。
結果として、
・会社の意思とは無関係に
・株主が交代する
という事態が生じます。
(2)複数株主会社の場合
複数株主が存在する会社では、質権実行により株式を取得した者に対して、
会社は譲渡承認の可否を判断します。
ただし、
・会社が承認しない場合
・会社又は指定買取人が買い取れなければ
最終的には譲渡を承認したものとみなされるため、承認拒否によって常に経営権を守れるわけではありません。
会社側が理解しておくべき本質的なリスク
株式質は、形式上は「担保取引」ですが、実質的には、
・株主構成
・議決権
・経営権
に直結する制度です。
とくに、
・創業者株式
・オーナー株主の持株
が質入れされる場合には、会社の存続・支配構造そのものが左右される可能性があります。
本コラムのまとめ
株式を質入れすることは、単なる資金調達手段ではありません。
・流質契約による即時的な経営権喪失
・競売による第三者株主の出現
・株主名簿・配当実務への影響
これらを総合すると、株式質は最後の手段として慎重に検討すべき担保といえます。
会社としても、「株主の個人的な融資だから関係ない」と考えるのではなく、
自社の経営にどのような影響が及ぶかを、あらかじめ把握しておくことが不可欠です。
手続きのご依頼・ご相談
本日は、株式を質入れする際に、株主・会社が負うリスクとは?株式質権設定を安易に担保に使ってはいけない理由について解説しました。
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