株式

特定の株主から自己株式を取得する場合の実務フローと注意点(非公開会社を前提)

自己株式取得の位置づけ

自己株式とは、株式会社が自社の株式を取得し、保有している状態をいいます。
自己株式の取得は、株主構成や会社財産に影響を与えるため、会社の判断だけで自由に行えるものではなく、会社法上、一定の手続きが定められています。

株主との合意によって自己株式を取得する方法としては、主に次の類型があります。
・株主全員に申込みの機会を与えて行う取得
・特定の株主からの取得
・市場取引・公開買付けによる取得

本コラムでは、非公開会社において実務で多く用いられる「特定の株主からの自己株式取得」を取り上げます。

特定の株主から取得する場合の最大の論点

特定の株主からのみ株式を買い取る場合、他の株主との関係で問題となるのが
売主追加請求権です。

これは、他の株主が
「自分も株式を売却したいので、自己株式取得の議案に加えてほしい」
と会社に請求できる仕組みです。

この請求期限は、株主総会の5日前までとされており、スケジュール設計に直接影響します。

売主追加請求権が問題とならない代表的なケース

もっとも、特定の株主から自己株式を取得する場合でも、常に売主追加請求権への対応が必要になるわけではありません。
実務上、次のような場合には売主追加請求権は問題となりません。

(1)定款で売主追加請求権が排除されている場合
非公開会社では、定款に売主追加請求権を排除する旨の定めを置くことが可能です。
この定めがある場合には、特定の株主から自己株式を取得するにあたり、売主追加請求権への対応は不要となります。

※ただし、定款変更により新たにこの定めを設ける場合には、株主全員の同意が必要となるため、実務上は設立時から定められているケースが中心です。

(2)株主総会を「みなし決議」で行う場合
株主総会をみなし決議(会社法319条)により行う場合には、株主全員が自己株式取得の内容に同意していることになります。
この場合、他の株主が売主追加請求を行う余地はなく、売主追加請求権は実務上問題となりません(追加請求したいのであれば株主は反対すればいいだけだから)。
そのため、スケジュール面でも手続きは大きく簡素化されます。

特定株主取得の基本的な手続きの流れ

非公開会社・取締役会設置会社を前提とすると、流れは次のとおりです。

1.株主総会招集通知とあわせて、売主追加請求ができる旨を株主全員に通知
2.売主追加請求(株主総会の5日前まで)
3.株主総会で自己株式取得を特別決議
4.株主総会後、取締役会で取得条件等を決議
5.特定株主への通知
6.株主による譲渡しの申込み
7.申込期日に売買成立
8.株主名簿の記載(必要に応じて消却・登記)

ここで重要なのは、
株主総会と取締役会の決議が「二段階構造」になっている点です。

株主総会では「取得の枠」を決め、
実際の取得条件(株数・価額・申込期日など)は株主総会後に取締役会で決定します。

この構造が、実務スケジュールをタイトにする要因になります。

スケジュール例(非公開会社・通常決議)

上記の流れを、実際の日付に落とすと次のようになります。

スケジュール例(約3週間)

日付 手続内容 補足
3/4 招集通知+売主追加請求ができる旨の通知発送 非公開会社のため1週間前発送で可。ただし「到達」期限に注意
3/8 売主追加請求期限 株主総会の5日前まで
3/13 株主総会(特別決議) 取得枠・取得期間・特定株主を決議
3/18 取締役会 取得条件・申込期日を決定
3/19 特定株主へ通知 取締役会決議内容を通知
3/26 譲渡の申込期日 この時点で売買成立
3/27 株主名簿記載・支払 自己株式取得完了

このように、最短でも2~3週間程度は見込む必要があります。




実務上の注意点

特定の株主から自己株式を取得する場合、実務で特に注意すべき点は次のとおりです。

・招集通知は「発送期限」、売主追加請求は「到達期限」である
・郵便事情を踏まえ、余裕をもった発送が必要
・株主総会後に取締役会を行うため、同日完結はできない
・スケジュールがタイトな場合、総会日から逆算した工程設計が不可欠

また、株主全員の同意を前提にみなし決議(会社法319条)を用いることができる場合には、
売主追加請求権の問題自体が生じず、スケジュール設計は大きく簡素化されます。

本コラムのまとめ

特定の株主からの自己株式取得は、非公開会社では比較的活用しやすい手法ですが、
・売主追加請求権
・通知期限の整理
・株主総会と取締役会の二段階構造
といった点を誤ると、手続きに瑕疵が生じやすい分野でもあります。
先にスケジュール全体を引き直したうえで、逆算して準備を進めることが、実務上もっとも重要なポイントといえるでしょう。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、特定の株主から自己株式を取得する場合の実務フローと注意点について解説しました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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