剰余金配当の種類株式は「参加/非参加」「累積/非累積」をどう考えるべきか
剰余金の配当に関する種類株式の設計
剰余金の配当に関する種類株式を設計するとき、避けて通れないのが参加・非参加と累積・非累積の区別です。
普段の実務でも、「決議は終わっているが、定款の規定が足りなかった」という相談がときどきあります。
とくに、種類株式の導入が増えた現在、発行済株式の規定を見直した際に「本来入れておくべき条項が抜けている」というケースは珍しくありません。
本稿では、実務で頻出する論点を整理し、規定が欠落していた場合の扱いまで含めて解説します。
種類株式の規定に「決議不要の定め」が抜けている問題
種類株式の内容を確認すると、「種類株主総会の決議を要しない」という定め(会社法322条2項等)が置かれていない例は少なくありません。
なぜ規定が抜けるのか
既発行株式についてこの定めを追加するには、総株主の同意が必要(会社法322条4項)です。
普通株式も種類株式となるため、普通株主全員の同意が前提になります。
この定めは、株主にとって不利益となり得る側面があり、
実務的には「導入したくても導入できない」ケースが一定数あります。
追加できない場合の取扱い
規定がない以上、種類株主総会の決議が必要という扱いになります。
実務担当者としては毎回「決議の要否」を検討する必要が生じるため、煩雑さは否めません。
なお、募集株式(199条4項)や新株予約権(238条4項)に関する決議不要の定めは、
株式の内容ではないと解されているため、登記事項ではありません。
剰余金配当の種類株式で問題になる「参加/非参加」「累積/非累積」
今回のテーマである参加性・累積性は、種類株式の中でも「剰余金の配当」に関する部分で議論されるものです。
以下では、それぞれの意味と基本的な考え方を整理します。
参加型・非参加型の違い
参加型
優先配当額を受け取った後、追加の配当がある場合には、優先株主もその配当に参加します。
よくある設計例(単純参加型)
1 優先株式が優先配当を受領
2 普通株主が優先株主と同額になるまで配当を受ける
3 残余分を両者で配分する
非参加型
優先株主は、優先配当額を限度としてのみ配当を受け、
それ以上の追加配当には参加しません。
累積型・非累積型の違い
累積型
ある年に配当が行われなかった場合、翌年以降に優先配当額を繰り越して支払う構造です。
実務上は、累積額に利息を付す例もあります。
非累積型
翌年以降に繰り越さず、「未払分は消滅」という扱いになります。
従業員持株会など、将来の配当を担保する必要が低い株主向けには、非累積型が一般的です。
他方、第三者に優先株式を持ってもらう場合には、累積型とすることも多く見られます。
では、定款に記載がなかった場合はどう扱われるのか
本稿でもっとも質問が多い論点がここです。
実務では定款に必ず記載するため見落としが起きにくいのですが、
発行後の株式を確認すると「参加/非参加が書いていない」「累積/非累積が抜けている」ということがあります。
この場合の扱いについて、主要文献では次のように整理されています。
規定がない場合の原則
「累積・非参加」と解される
(出典:新・会社法 実務問題シリーズ2『株式・種類株式』第2版)
背景としては、
優先株主の権利は「優先配当額を確実に受ける」点にあり、それ以上でもそれ以下でもないという理解が前提になります。
実務上、規定が漏れていた場合にどう扱うかは、まさにこの考え方によって整理されます。
実務上のポイント
最後に、本テーマを実務で扱う際のチェックポイントを整理します。
チェックすべき項目一覧
・種類株式の内容に「参加/非参加」「累積/非累積」が明記されているか
・種類株主総会決議不要の定め(322条2項)があるか
・既発行株式の場合、同意要件(322条4項)を満たせるか
・「優先配当の方式(優先順位/金額)」が明確か
・将来の第三者割当やEXITを意識し、投資家向けに説明できる設計か
種類株式はメリットも大きい一方で、規定漏れがあると後の再構築が非常に困難です。
発行前・導入前の段階で精緻に設計しておくことが不可欠です。
手続きのご依頼・ご相談
本稿では、剰余金配当の種類株式に関する基本構造と、規定が欠落した場合の原則(累積・非参加)を中心に整理しました。
とくに種類株主総会決議不要の定めは、追加できないケースも存在するため、
既発行株式の見直しの際には慎重な確認が求められます。
司法書士法人永田町事務所では、種類株式の設計・見直し、投資家対応を含む実務全体をご支援しております。
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