「簿価移転」とは?会社分割における資産評価と資本金の関係
簿価移転とは何か
会社分割などの組織再編では、移転する資産を「どの価額で引き継ぐか」が大きな論点となります。
このうち簿価移転とは、移転元会社の帳簿上の金額(簿価)をそのまま移転先会社に引き継ぐ方法をいいます。
たとえば、ある会社が自社工場の一部設備を分割により新設会社へ移す場合、時価評価を行わず、帳簿価額のまま移すのが簿価移転です。
これは、会計上も税務上も「移転により利益を生じさせない」ことを目的とした処理方法です。
「簿価移転=資本金」ではない
しばしば、「簿価移転する=その金額を資本金にする」と誤解している方がいますが、これは正確ではありません。
簿価移転はあくまで資産の評価基準に関する話であり、
その資産をどの程度資本金として計上するかは、別の問題――つまり会社法上の資本政策の決定です。
したがって、簿価で資産を移したとしても、
・全額を資本金に計上する、
・一部を資本金、一部を資本準備金とする、
どちらの方法も可能です。
組織再編は会社計算規則49条が適用されます。会社法445条のような2分1ルールの適用はありません。
資本金の額の計上に関する証明書についても以下のように記載すればいいのです。
・株主資本変動額 金1億円(簿価)
・上記の範囲で新設分割計画に従って定めた設立時資本金の額 金1000万円
実務でのイメージ
事業再編の初期段階において、事業の切り出しを目的に新会社を設立し、
移転元会社がその資産を現物出資するような形で簿価移転を行うケースが多く見られます。
この場合、移転資産の簿価と同額を資本金とすることもありますが、
それは「簿価移転だから」ではなく、会社の意思決定としてそう定めた結果にすぎません。
実務上の注意点
1.分割契約書への明記
「簿価移転とする」旨を分割契約書や稟議書に明確に記載し、会計・税務処理との整合性を確保します。
2.資本組入額の決定
資本金と資本準備金の内訳を明示し、登記・会計・開示で一貫性を保つことが重要です。
3.税務上の適格性確認
支配関係や事業継続性など、適格分割要件を満たしているかを事前に税理士と確認します。
本コラムのまとめ
| 項目 | 簿価移転 | 時価移転 |
|---|---|---|
| 評価基準 | 帳簿価額で移転 | 公正価値で移転 |
| 税務上の扱い | 適格分割の場合は課税繰延べ | 非適格分割の場合は譲渡益課税 |
| 資本金との関係 | 任意に資本金・資本準備金に配分可 | 同左 |
| メリット | 課税繰延べ・会計の簡素化 | 時価評価による資本増強効果 |
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本日は、「簿価移転」とは?会社分割における資産評価と資本金の関係について解説しました。
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