条件付きで減資額が変動する場合の記載例と実務上の留意点
条件付減資公告
減資は、資本構成の見直しや欠損補填のために行われる会社法上の重要な手続です。
通常は減資金額を確定させて公告・決議を行いますが、増資や新株予約権の行使を条件として減資額が変動する場合もあり得ます。
本稿では、減資公告時点において減資額を決定できないケースの記載例と関連論点を整理します。
増資を条件とする減資の記載例
募集株式の発行を予定している場合、払込期日が減資効力発生日と近接することがあります。
この場合、増資によって資本金がいくら増加するか不確定のため、減資額も連動して変動することになります。
代表的な記載例は以下のとおりです。
例1:増資額を加算した減資額を明記する方式
この決定に対し異議のある債権者は、本公告掲載の翌日から一箇月以内にお申し出下さい。
なお、最終貸借対照表の要旨は次のとおりです。
例2:資本準備金への振替を明示する方式
また、令和●年●月●日から令和●年●月●日までの日を払込期日とする株式の発行があった場合には、資本金の額を当該株式の発行により増加する資本金の額と同額分減少し、その全額を資本準備金とすることにいたしました。
この決定に対し異議のある債権者は、本公告掲載の翌日から一箇月以内にお申し出下さい。なお、最終貸借対照表の要旨は次のとおりです。
例3:払込期日を条件とした方式
この決定に対し異議のある債権者は、本公告掲載の翌日から一箇月以内にお申し出下さい。なお、最終貸借対照表の要旨は次のとおりです。
新株予約権の行使を含める場合
減資効力発生日までに新株予約権の行使が生じる可能性がある場合、これをあらかじめ公告・議事録に反映させることも可能です。
当社は、資本金の額を●円減少し、●円とすることにいたしました。
また、当社が発行している新株予約権が令和●年●月●日から資本金の額の減少の効力発生日までの期間に行使された場合には、当該新株予約権の行使に伴う株式発行により増加する資本金の額と同額分をあわせて減少し、最終的な資本金の額を●円とすることにいたしました。
減資額を確定的に定めなくてもよいのか
公告や株主総会決議の時点で、募集株式の発行や新株予約権行使により資本金額がいくら増加するか不明確であっても、会社法上および登記実務上、減資を行うことは可能です。
実務では、上記のように「増加額と同額を減少させる」との形式的な表現で公告・決議を行い、効力発生日に最終的な減資額を確定させる取扱いが認められています。なお、債権者保護手続きの趣旨を鑑みると、最終的な資本金がいくらになるのかは記載するのが望ましいでしょう。
減資額が現時点の資本金額を上回る場合
「現在の資本金の額<減資予定額」となるような記載は一見矛盾しますが、効力発生日現在の資本金の額が減資額を上回っていれば問題ありません。
会社法第447条2項は、「効力発生日において資本金がゼロ以下マイナスになることを防止」する趣旨であり、効力発生日基準で適法性を判断します。
本コラムのまとめ
・条件付きで減資額が変動する場合でも、公告・議事録には「増加額と同額分を減少」といった記載をすれば実務上適法。
・最終的な資本金がいくらになるのかは記載することが望ましい
・新株予約権行使による増資も同様に取り扱える。
・減資額が現時点の資本金を上回っていても、効力発生日にバランスが取れていれば問題なし。
・減資は債権者保護手続を伴うため、公告文言や議事録の記載の一語一句が登記の可否に直結します。実務では、「効力発生日現在で整合性が取れているか」を常に意識することが重要です。
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本日は、条件付きで減資額が変動する場合の記載例と実務上の留意点について解説いたしました。
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