吸収分割 / 吸収合併

同一商号・同一本店を伴う新設分割+吸収合併の登記実務

新設分割と吸収合併を同日に実行するスキーム

本コラムでは、新設分割と吸収合併を同日に実行するスキームで、承継会社(新設会社)が分割会社と同一商号・同一本店を希望する場合の商業登記の実務論点を整理します。
具体的には、商号変更を挟むべきか否か(要否の判断)、会社分割に固有の必要的連件申請の設計、そして代表印の届出・改印の段取り(オンライン申請を含むタイミング設計)を、管轄の前提や申請順序の組み立てとあわせて解説します。実務担当者が同一商号・同一本店の一時併存リスクを回避し、補正を防ぐための手順設計に役立つ観点を示します。

この記事で扱うスキーム(前提)

・新設分割+吸収合併の複合型
 分割会社Aが新設分割で新会社A’を設立し、同日にAは存続会社Bへ吸収合併して解散。
要望:A’は「Aの事業をそのまま承継」するため、商号・本店・役員・代表印を可能な限りAと同一にしたい。

結論(本コラムの要点)

・商号変更の要否は、手続の「連件性」と管轄構成で結論が分かれる。
 ・会社分割の登記は必要的連件申請(承継→分割の順で同時申請/一方に不備があれば全件却下)。
 ・これを踏まえ、新設分割に伴う商号の入替えは、登録免許税を節約する実務上のまとめ方が可能(3件を2件に整理)という考え方がある一方、
 ・新設分割と吸収合併の“混合型”では、実体は不可分でも登記は別手続のため、形式的に分割会社Aの商号変更を挟むべきとする見解が成り立つ。
・同一商号・同一本店の“瞬間併存”をどう回避するかが核心。
 登記の受理順・連件性・完了時点の状態を踏まえ、却下リスクを避ける順序設計が必要。
・印鑑届・改印は段取りで詰まる。
 新設会社A’が分割会社Aと同一印影を届出る設計自体は条文先例の明文禁止を見出せないが、実務上はAの改印が事実上必要。
 オンライン申請との組合せでは届出タイミングの矛盾が生じやすく、カバーレター等で意図を明確化して対応するケースがある。

商号変更をめぐる実務上の考え方(整理)

単純な商号の入替え(A↔B)

・原則:同時に2社が互いの商号へ「直接」変更することは、必要的連件ではないため、片方だけ却下されうる。
・よって通常は
 1.A→C
 2.B→A
 3.C→B
3件で迂回する(同一本店の同一商号の一時併存を避ける)。

会社分割が絡む場合

・会社分割は必要的連件申請。
「承継会社の変更」→「分割会社の変更」を同時に申請し、全件一体で審査。
・実務では、新設分割で
 ・1件目:新会社A(本店も同一)を設立
 ・2件目:分割会社A→Bへ商号変更(+分割した旨)
という2件構成にまとめて受理される整理(結果として3件分の動きを2件に圧縮)。
ねらいは完了時点で同一本店のAが1社に収束すること。

 会社分割や合併といった組織再編において、社名を入れ替えるなどして、承継会社が分割会社と同一商号・同一本店を使用するという要望は少なくありません。
この場合「一時的に同一商号・同一所在地の会社が併存するのではないか」という懸念が生じますが、実務上は、必要的連件申請の仕組みや、同日・同時申請による即時解消という処理により、形式的には併存しても問題なしと判断されます。
実際に、法務局へ「同一本店・同一商号となる商号変更及び吸収分割の同時申請」に関する照会を行いましたが、「ご意見のとおり問題ない」と回答があり登記を完了しています。

新設分割+吸収合併の“混合型”

・実体は不可分(同日に効力)でも、登記は別手続。
・よって、「実体は一蓮托生だからAの商号変更は省略できる」と断定はできない。
・実務安全策としては、分割会社Aの商号を一旦変更して、同一商号・同一本店の一時併存リスクを形式面で遮断する設計が妥当。

印鑑届・改印の段取り


届出パターン(比較)

新設会社A’の届出 分割会社Aの対応 所要
案1 A’は適宜の印鑑で先に届出→完了後にAの印鑑へ改印 改印は完了時の来局時に実施 分かりやすいが、郵送・原本還付の往復で時間がかかる
案2 A’がAと同一印影を届出し、Aは登記申請時に改印 改印届を先行させる運用設計が必要 時間短縮狙い。ただしオンライン申請のチェック項目と整合が崩れやすく、説明文の同封など調整が要る

備考:複数代表者による同一印影の届出は不可(同一会社内、昭43.1.19 民事甲第207号)。
一方、別会社間の同一印影届出を明確に禁ずる先例は見当たらないが、実務上は改印が前提

オンライン申請×改印タイミングの実務対応

・申請順
(理想)改印届 → 新設分割設立 → 分割会社変更 → …
・ただしオンラインで「印鑑届あり」等の申請属性と実際の届出順が齟齬を生むことがある。
・対応例:添付群の先頭に改印届を置く/意図と順序を説明する書簡を同封して審査便宜を図る。

管轄・申請順序の注意(重要)

・分割会社・新設会社・存続会社の管轄が同一で、新設分割と吸収合併を連件で申請する前提で初めて運用できる設計がある。
・管轄が分かれる場合
 ・新設分割の申請先と合併の申請先が別々になり、
 ・新設分割の完了待ち→合併申請の流れとなるため、今回のような“まとめ方”は取りにくい。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、同一商号・同一本店を伴う新設分割+吸収合併の登記実務について解説しました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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