組織変更(株式会社→合同会社)で「効力発生日に社員を増やす」登記実務の整理
組織変更における登記実務の注意点
株式会社を合同会社へ「組織変更」する場合、効力発生日に新たに社員(出資者)を加入させたいという要望が出ることがあります。
しかし、このときの登記実務には注意点が多く、一括申請の可否、代表社員が法人の場合の職務執行者選任、印鑑届出の要否など、実務で悩ましい論点が存在します。
本コラムでは、組織変更における「効力発生日の社員加入」をテーマに、登記の流れと省略できない手続き、そして実務上の判断ポイントを整理します。
本コラムの要点(結論)
・一括申請は不可:合同会社の「設立登記」と、効力発生日に行う「社員加入等の変更登記」を一括申請することはできません。実務照会の結論も「できません」。
・中間省略登記は不可:代表社員就任→職務執行者選任は“代表社員の登記と一体”のため、省略不可。
・実務フローは3件連動が基本
1.合同会社の設立(唯一の株主たる法人が代表社員に就任+職務執行者選任+印鑑届)
2.株式会社の解散
3.社員加入(多数)+代表社員の交代(退任・就任)+新代表社員の印鑑届
背景と論点
論点1:効力発生日に社員を多数加入できるか
・理屈上は可能(効力は登記前でも発生)。
・実際の手続は当日、定款変更(社員の住所氏名の追加)+出資履行+加入を段取りする。
論点2:「設立登記」と「社員加入の変更登記」を一括申請できるか
・できない(実務照会の結論)。
・したがって、設立→解散→加入・代表交代という段階申請が必要。
論点3:唯一の社員(=効力発生時点で自動的に代表社員となる法人)に職務執行者は要るか
・要る。
・代表社員が法人である以上、職務執行者選任は不可避。
・代表社員の登記と職務執行者は同一枠で処理されるため、代表社員だけ先に登記して職務執行者は後でという省略・飛ばしは不可。
論点4:「最終的に別の代表社員が就く前提なら、最初の職務執行者・印鑑届は省けないか」
・省けない。
・一括申請が認められず、中間省略登記も不可のため、初期状態の代表体制を一旦きちんと登記・届出→その後、社員加入・代表交代で積み替える。
実務フロー(効率化のコツ)
標準フロー(3件)
1.合同会社の設立登記
・唯一株主の法人=代表社員に就任
・職務執行者を選任
・職務執行者の印鑑届出
2.株式会社の解散登記
3.社員の加入登記・代表体制の組み替え
・多数社員の加入(定款変更+出資履行)
・当初代表社員の退任/新代表社員の就任
・新代表社員の印鑑届出
段取りのポイント
・書類の事前収集・押印動線を整理し、効力発生日当日の定款変更・出資履行→加入の実行性を確保。
・印鑑届はその時点の代表者が行うため、最初の代表体制でいったん届出→最終代表体制でもう一度届出が発生しうることを事前に説明。
・「1日で終わらせたい」要望が強い案件では、当日チェックリストを作り、窓口の受付順・補正発生時の対応役割まで決めておく。
よくある設計と登記の帰結
設計案 | ねらい | 登記上の可否・帰結 | 実務注意点 |
---|---|---|---|
設立+加入を一括申請 | 職務執行者・印鑑届の省略感 | 不可(一括申請NG) | 3件分割で進める前提で工程設計 |
最初の代表社員(法人)だけ登記し、職務執行者は後日 | 初期の手間削減 | 不可(同一枠、中間省略不可) | 初期代表体制で職務執行者必須 |
効力発生日の募集株式→その後に組織変更 | 事前準備を厚く、当日負荷を下げる | 未採用(未確定) | 株主全員同意の時点と組織変更計画の記載整合が難所 |
本コラムのまとめ
・登記は“段階を飛ばせない”:一括申請も中間省略も不可。
・代表社員(法人)+職務執行者は不可分:初期状態を正面から構築し、その後の加入・代表交代で仕上げる。
・当日完結を要求される案件ほど、事前の定款設計・出資履行の動線・押印管理・窓口対応までをパッケージ化して臨む。
手続きのご依頼・ご相談
本日は、組織変更(株式会社→合同会社)で「効力発生日に社員を増やす」登記実務の整理について解説いたしました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。