改正会社法、役員等賠償責任保険(D&O保険)の新ルールと実務対応
改正の要点
2019年改正会社法(2021年3月施行)により、役員等に対する「補償契約」と「役員等賠償責任保険契約(D&O保険)」について、手続と情報開示のルールが明確化されました。
主なポイントは以下のとおりです。
・契約の内容決定は原則として決議事項(取締役会設置会社=取締役会決議、非設置会社=株主総会決議)
・更新時にも内容を確認し、承認を得ることが求められる
・事業報告における情報開示が義務化
・適法な手続を経て会社が保険料を負担した場合、役員個人に給与課税は生じない
役員等賠償責任保険(D&O)の位置づけ
D&O保険は、役員等が職務執行に関連して第三者から損害賠償請求を受けた場合に、賠償金や和解金、弁護士費用などを補償するものです。
改正により、契約手続が制度的に整備され、会社と役員の利害を調整する仕組みが整えられました。
手続の実務
・決議主体:取締役会設置会社は取締役会、非設置会社は株主総会が承認機関となります。新規締結・条件変更・更新時ごとに承認を行うことが望まれます。
・利益相反の整理:契約相手や代理店に役員関係がある場合は、利益相反取引として別途承認を得て、議事録に経緯と対応を明記するのが実務的です。
情報開示のルール
公開会社の場合、事業報告に以下の事項を記載する必要があります。
・被保険者の範囲
・契約内容の概要
・保険料の負担割合(役員が負担している場合)
・補償対象となる事故の概要
・職務の適正性が損なわれないようにするための措置
税務上の取扱い
適法手続を経て会社が保険料を負担した場合、役員個人への経済的利益供与には当たらず、給与課税は不要とされています。
議事録・資料のチェックリスト
実務上、議事録に記載すべき項目は以下のとおりです。
・保険会社名
・代理店名(役員関係の有無を明記)
・保険期間
・保険料(会社負担の有無・割合)
・補償内容・被保険者の範囲(取締役、監査役、執行役など)
・職務適正性確保の措置(犯罪行為の除外等)
必要に応じ、利益相反に関する説明と承認
添付資料としては、契約書ドラフトまたは主要条件一覧を用意すると確実です。
年間運用モデル
・定時株主総会・取締役会の年次アジェンダに「D&O保険の承認」を定例化
・更新の2か月前に条件調整、1か月前に社内承認準備、定時会で正式決議
・事業報告用の開示文案も同時に作成しておくと効率的です
手続きのご依頼・ご相談
本日は、改正会社法、役員等賠償責任保険(D&O保険)の新ルールと実務対応について解説いたしました。
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