株式分割・株式併合

株式買取請求権が発生しない手続きとしての「株式併合」整理

株主整理

ある非上場会社から、「株式買取請求権が発生しない方法で特定の株主を整理できないか」というご相談を受けました。
株主は数百名にのぼり、多くは従業員株主ですが、歴史の長い会社であるため、退職者やその相続人が株主になっており、連絡が取れない方も少なくありません。
会社としては、従業員株主には引き続き配当を行いたい一方で、関係が希薄になった株主については株式を整理したいというご意向でした。

株主整理の方法としては、次のような選択肢が考えられます。

1.任意の株式売買による取得
2.取得条項付株式の導入
3.全部取得条項付種類株式の利用
4.株式交換(現金対価を用いる場合を含む)
5.株式併合

しかし、全員の同意が必要となる取得条項付株式は現実的ではなく、株式交換や全部取得条項付種類株式はいずれも株式買取請求権が発生します。
そのため、買取請求権が発生しない株式併合が最も現実的な候補となりました。

会社が株式買取請求を避けたい理由

会社が株式買取請求を嫌がった理由は大きく2点ありました。

①通知・公告の負担
株主に対して「株式買取請求権があります」と通知すると、従業員や相続株主に不要な動揺を与える可能性がある。

②「公正な価格」の不確実性
非上場会社の場合、株価評価が純資産額ベースで高額となる可能性があります。
出資額に比べて何十倍、何百倍の価格で買い取る必要が出てくることもあり、経営側にとって大きなリスクです。

このため、株式併合を活用するのが最も現実的だと判断されました。

株式併合と株式買取請求権

株式併合には株式買取請求権が認められていません。その理由は次のとおりです。

・株式併合は単に株式数を比率に応じてまとめる行為であり、株主の経済的価値には影響がありません。500円玉2枚を1000円札1枚に替えるようなもので、価値が変わらないためです。
・株式数が整数で残る株主には不利益はないため、会社に対して株式の買い取りを請求する余地はありません。

問題となるのは端数株主です。
株式併合の結果、1株未満しか保有できなくなった株主は、株主としての地位を失います。
この場合、会社は端数株を合算して裁判所の許可を得て売却し、その代金を端数株主に交付します。
売却価額は裁判所の関与を経て決まりますので、株主が不当に不利益を被ることはないと考えられています。

実質的な比較

株式併合で端数株主が受け取るのは現金です。
この点だけをみれば、株式買取請求によって会社から株式を買い取ってもらう場合と大きな差はありません。ただし次の相違点があります。

株式併合
・株主に買取請求権はなく、端数株式は裁判所の許可を得た売却代金で精算されます。
・「公正な価格」という明文規定はありませんが、裁判所の関与により合理性が担保されます。

株式買取請求
・反対株主が会社に買取を請求できます。
・「公正な価格」で買い取る義務があり、価格決定申立てを通じて裁判所が関与することもあります。

結果的に端数株主の処遇は両者で大きな差がなく、株式併合に株式買取請求権を設ける意味は乏しいと整理されています。

実務上の留意点

株式併合は少数株主排除の手段として利用されることが多いため、濫用防止の観点から訴訟リスクを念頭に置く必要があります。
公告や通知を通じて外部に情報が伝わる点は避けられません。従業員株主や相続株主への説明責任を丁寧に果たすことが重要です。
株主平等原則との関係から、恣意的な比率設定は避けるべきであり、合理的な根拠を持った設計が求められます。

本コラムのまとめ

株式併合は、株式買取請求権が発生しない数少ない手続であり、特定株主の整理に有効な手段となり得ます。
ただし、少数株主を排除するために利用する場合には、裁判所の許可や価格決定の仕組みを通じて株主保護とのバランスを取る必要があります。
今後のスクイーズ・アウトの拡大や裁判例の動向を注視しつつ、慎重に活用することが求められるでしょう。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、株式買取請求権が発生しない手続きとしての「株式併合」整理について解説いたしました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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