簡易合併はどこまで可能か「5分の1要件」「差損」「連結配当規制適用会社」の実務整理
まず押さえる前提(簡易合併の基本線)
簡易合併のメリットは、実質的に「株主総会決議を省略できる」ことだけです。
要件は、合併対価の額 ≤ 存続会社の純資産額の5分の1。
もっとも、要件充足の証明書を法務局へ出す実務負担が大きく、株主総会が容易に開ける会社では、あえて簡易合併を使わない方が手続は平易という位置づけです。
無対価合併でも証明書は必要となります(合併時点の純資産額の記載が求められるため、誤差が小さくなるよう配慮して作成・提出)。
「5分の1」を満たしても簡易にできない場合
次のいずれかに該当すると、株主総会の承認が必要になります。
・対価が存続会社の譲渡制限付株式である場合
・合併差損が生じる場合(典型は以下の3パターン)
1.消滅会社が債務超過
2.合併対価 > 承継純資産額
3.抱き合わせ損が発生(親会社が保有する子会社株式の帳簿価額に比し、承継する純資産が小さいため、合併後に存続会社の純資産が減少)
例)親が子株を1,000万円で保有、子の純資産900万円 → 100万円の抱き合わせ損。
子が合併前に増資して債務超過を解消しても、親の帳簿価額は積み上がるだけで、抱き合わせ損の解消には直結しません。
※実務では親の子会社株式の帳簿価額を必ず確認。
連結配当規制適用会社という“抜け道”
・連結配当規制適用会社であれば、差損が出る場合でも簡易合併が可能となる扱いがあります。
・位置づけ:分配可能額を連結ベースで制御する仕組み。子会社の赤字が強く反映されるため、連結ベースが単体より小さいときは連結、逆は単体で上限を決める運用。
・対象は実務上ほぼ上場会社(連結計算書類作成会社)。
・適用の手続は、計算書類作成時に「適用会社」とする旨を注記表に記載(毎期判断・記載)。
・それでも採用会社は多くない(配当上限が抑制されやすい=株主側の事情)。
差損判定の“読み替え”のイメージ(計算規則の把握)
・差損判定は、存続会社の貸借対照表(BS)をベースに、合併により増加する「資産」と「負債」を比較。
・原則は 〔増加資産-増加負債〕がマイナス → 差損。
・連結配当規制適用会社かつ相手が子会社の場合は、「資産の額」を読み替えるルールにより、負債が上回ってもマイナス計数に落とし込まない構造(=差損扱いを回避)。
・抱き合わせ損も、存続会社BSベースで判定するため、抱き合わせの問題が解消される整理。
率直に言えば条文は読みづらいですが、**ポイントは「資産側の読み替えでマイナスを出さない」**という一点です。
もう一つの手当て→子会社株式の「減損」
連結適用外の案件であっても、親会社側で子会社株式の評価損(減損)を計上し簿価を下げることで、抱き合わせの差を圧縮する手当てが検討されます。
ただし、減損しても簿価は0円まで。よって子が債務超過だと支障→ 事前に増資して債務超過を解消しておく発想。
減損の実行は「決めればできる」性質(合理性の裏付けは要)と説明されるが、効力発生の時期には要注意です。
参考:商事法務No.1894「簡易組織再編における『差損』の判定」(詳細な実務論点の整理あり)。
実務メモ(上場会社あるある)
上場会社は株主総会を極力開かずにスケジュールを通したい事情が強いです(定時総会待ちだとタイミングが合わない、開示や対外説明の負担 等)。
とはいえ、簡易合併の証明実務は重たい。
結論
・総会を容易に開ける会社……無理に簡易へ寄せない方が平易。
・総会を避けざるを得ない会社……連結配当規制適用会社の選択や減損+事前増資といった会計サイドの設計まで含め、早期に全体設計を固める。
手続きのご依頼・ご相談
本日は、簡易合併はどこまで可能か「5分の1要件」「差損」「連結配当規制適用会社」の実務整理を行いました。
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