種類株式

書面による条件付決議の実務的課題と留意点

書面決議(決議の省略)

全部取得条項付種類株式を利用したスクイーズ・アウトは、上場会社だけでなく非上場会社でも利用される場面があります。
ところが、この手続は 複数の定款変更・株主総会・種類株主総会を要するため、決議の重複や条件付決議の扱いが複雑 になるのが特徴です。
特に書面決議(決議の省略)で処理しようとする場合に、手続の順序や条件の成就関係が問題になります。

決議の流れと条件付決議

全部取得条項付種類株式を設定してスクイーズ・アウトを行う場合、典型的な流れは次のとおりです。

1.種類株式発行会社化の定款変更
例:A種類株式を新設。
→ この段階では条件付決議ではない。

2.普通株式に全部取得条項を付与する定款変更
→ ①の可決を前提とするため、条件付決議に該当。

3.普通株式の種類株主総会決議
→ 種類株式発行会社化が効力発生して初めて成立可能。
招集時点ではまだ種類株主が存在しないため、基準日や公告を条件付きで設定することが実務上行われている。

4.全部取得条項に基づく取得決議
→ ②③が効力発生していることを条件とするため、典型的な条件付決議。

書面決議にした場合の論点

書面決議は「全株主の同意が会社に到達した時点」で成立します。
そのため、株主総会を順次開催する場合のように「条件が順番に成就する」プロセスをたどりません。すると次の疑問が生じます。

・種類株式発行会社化前に種類株主総会決議を同意できるか?
→ 条件成就前に種類株主の意思決定をしてしまう矛盾がある。
実務的には「株主総会の書面決議成立後に改めて種類株主総会の書面提案を行う」という二段階構成が望ましい。

・二重条件決議は許されるか?
→ 例えば「全部取得条項を付す定款変更の効力発生を条件」とする決議は理論上可能。ただし条件関係が複雑になり、後日の紛争リスクを招く恐れがあるため、慎重に文言を整える必要がある。

実務上の整理

・書面決議を利用する場合でも、条件の成就を前提とする決議は段階的に分けて提案・同意させる のが安全。
・種類株主総会の招集に関しては、実務上「種類株式発行会社になることを条件に基準日を設定し、公告・招集する」運用が行われている。法的安定性に疑問は残るが、実務では一般化している。
・条件付決議の「限界」を超えると無効リスクが生じるため、条件の内容・成就時期・効力発生日を明確に区分 して記載することが必須。

本コラムのまとめ

条件付決議は便利な手法ですが、書面決議と組み合わせると「決議成立の同時性」と「条件の成就順序」の整合性が課題となります。
種類株主総会の扱いや二重条件の可否など、条文の明文解決がない部分も多いため、実務では段階を区切って安全運用することが推奨されます。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、書面による条件付決議の実務的課題と留意点について解説いたしました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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