債権を現物配当する場合の手続と留意点
現物配当
現物配当とは、剰余金の配当を「金銭以外の財産」で行う方法です。
配当財産に債権を用いる場合、形式的には株主総会での剰余金配当決議により実現します。
しかし、実務では通常の債権譲渡と同様に、債務者への通知や承諾といった対抗要件の具備が必要となります。
通常の債権譲渡と比較した手続き
通常の債権譲渡(有償の場合)
1.債権譲渡契約の締結
2.対価の支払い
3.債務者への通知または承諾
4.第三者対抗要件の具備(確定日付ある証書など)
債権の現物配当(無償譲渡の場合)
1.株主総会における剰余金配当決議
2.対価支払は不要
3.債務者への通知または承諾は必要
4.第三者対抗要件も状況に応じて必要
そのため、実務では譲渡人(会社)、譲受人(株主)、債務者の三者間で債権譲渡契約を締結して処理するのが一般的です。
株主平等原則との関係
債権を現物配当する場合、問題になるのが株主間の平等性です。
株主が複数人いる場合、債権をそのまま分割して配当するのは困難ですし、債権を共有にするのも非現実的です。
そのため、現物配当は実務的には100%親子間で用いられるケースが多いと考えられます。
ただし、会社法には次のような特則があります。
会社法454条4項2号
一定の株式数未満を保有する株主に対しては配当財産の割当てをしないことができる。
会社法456条
その場合、割当てを受けられない株主には代わりに金銭を交付する。
この仕組みを利用すれば、大株主には債権を現物で配当し、少数株主には現金を交付することが可能となります。
金銭交付の法的性質
ここで問題になるのは、割当てを受けない株主に交付する現金の性質です。
結論として、この現金は剰余金の配当の一部として扱われます。
したがって、通常の金銭配当と同様に利益準備金の積立義務が生じることに注意が必要です。
本コラムのまとめ
・債権の現物配当は、株主総会の決議と債務者への通知により実行される。
・実務上は三者間契約で整理することが多い。
・複数株主がいる場合は平等性の問題があるが、会社法454条・456条により、大株主と少数株主で現物と金銭を使い分けることができる。
・金銭交付は配当の一部とされるため、利益準備金の積立義務が発生する。
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本日は、債権を現物配当する場合の手続と留意点について解説いたしました。
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