株式譲渡の承認決議と特別利害関係、全員利害関係の場合の対応
株式譲渡の承認機関と特別利害関係
譲渡制限株式を譲渡する場合、会社の承認が必要です。
承認機関は取締役会が一般的ですが、譲渡人や譲受人が取締役であるケースも多く、この場合は「特別利害関係人」として議決に参加できません(会社法369条)。
通常は、利害関係にない取締役が定足数を満たせば決議可能です。
たとえ取締役会の最低員数(3名)を下回っても、特別利害関係人を除外して定足数を計算するため、残り1名の賛成で成立することもあります。
しかし、取締役全員が特別利害関係を有する場合は、取締役会での決議自体ができなくなるという難題が生じます。
全員が特別利害関係を有する場合の考え方
先例(S29.7.6民甲1394号)では、取締役全員が連帯債務者である事案において、取締役全員が特別利害関係人に該当し、取締役会での決議が成立しないとされました。
一方、学説上は「取締役全員が利害関係を有する場合は、誰も議決権を行使できないとすると決議機能が失われるため、例外的に全員議決可能と解すべき」との見解もあります(会社法コンメンタール等)。
結論としては、実質的に公平性が確保されるかどうかによって判断されるべきで、ケースバイケースの扱いになります。ただし、実務上は「危ない橋は渡らない」という姿勢が無難です。
回避策の検討
このような状況を避けるための対応策としては、以下が考えられます。
1.利害関係のない取締役を増員して決議を可能にする
2.定款を変更し、承認機関を株主総会に移す
→ 株主総会が容易に開催できる会社では、シンプルかつ確実
3.承認機関を代表取締役に変更する方法もあるが、代表取締役自身が利害関係人の場合に承認できないため、予備規定が必要となり現実的ではない
また、「一定の場合に承認不要とする定め」もありますが、譲渡人の属性を限定する規定(例:取締役が譲渡する場合は承認不要)は認められていません。
「取締役会または株主総会の承認を要する」といった選択的な定めについては、実務例や文献は乏しく、一般的ではありません。
現実的には「取締役会が承認機関、ただし全員が特別利害関係人の場合は株主総会」とする規定なら妥当と考えられます。
実務的な注意点
さらに、会社法145条には「承認しない旨を通知しなかった場合は承認したものとみなされる」との規定がありますが、これを積極的に利用して問題を回避するのは現実的ではありません。
最終的に今回の事例では、当初「全員特別利害関係人」と思われていたものの、実際には利害関係のない取締役が1名存在したことが判明し、取締役会での承認決議が可能となりました。
本コラムのまとめ
・取締役全員が特別利害関係を有する場合、取締役会で決議できないのが原則
・回避策としては「株主総会を承認機関とする定款変更」が最もシンプル
・ケースによっては増員や予備規定での対応も検討可能
・実務では、スケジュールや株主構成を踏まえた柔軟な設計が必要
手続きのご依頼・ご相談
本日は、株式譲渡の承認決議と特別利害関係、全員利害関係の場合の対応について解説いたしました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。