株式分割・株式併合

自己株式の取得決議と書面決議の可否

特定株主からの取得を予定したケース

ある会社で、株主1名が会社を離れることとなり、その株式を会社が買い取ることになりました。
手続としては「特定株主からの取得」を選択する予定でした。

問題提起「書面決議で行えるのか?」

当該手続きを書面決議で行う場合、重大な論点が浮かび上がります。

・書面決議であっても「売主追加請求権」の扱いはどうなるのか?
・売主追加請求があれば、特定株主が追加されるため、議案内容が変更されることになる。
・通常の株主総会であれば、当日に説明して修正決議が可能だが、書面決議では修正できない。

売主追加請求権と議案変更の問題

「売主追加請求権」が行使されると、

1.特定株主が追加される
2.議決権を有していた株主が議決権を失う
3.議案の内容自体が変わってしまう

このように、株主総会の決議内容に直接影響するため、書面決議で対応できるのか大きな疑問が残ります。

考えられる二つの立場

この点については、次の二つの考え方に整理できます。

立場 内容
① 書面決議はできない 特定株主からの取得は「売主追加請求権」により議案変更があり得るため、書面決議では予定されていない。
② 書面決議も可能 実際に売主追加請求権が行使されなければ、書面決議でも成立可能。


会社法施行規則の射程

会社法施行規則28条・29条では、売主追加請求権に関する通知や期限について定めています。
しかしこれは「株主総会開催」を前提とした規定であり、書面決議に適用できるかは明文がありません。

・書面決議では「売主追加請求権行使のタイミング」が想定されていない
・実際に権利を行使する株主が同意する可能性も極めて低い
・だからこそ規定が置かれていないのではないか、という解釈もあります

リスク回避としての対応

最終的には、リスクを回避するため「特定株主からの取得」はやめ、ミニ公開買付けの方法で実施することにしました。
この判断の背景には、

・書面決議に売主追加請求権が適用されるか不明確
・手続の安定性を優先すべき
という実務的な観点があります。

本コラムのまとめ

・特定株主からの取得は、書面決議では不確実性が高い
・売主追加請求権の存在により、議案変更リスクがある
・会社法施行規則は書面決議を前提としていない

手続きのご依頼・ご相談

本日は、自己株式の取得決議と書面決議の可否について解説いたしました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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