社債的性質をもつ種類株式の設計と実務対応
債権を株式に変える要請とDESの必要性
ある外資系企業の子会社で、親会社が機械を販売したものの代金未払いの状態が継続していました。
帳簿上は「未払金」として計上され、会社にとっては債務です。さらに金融機関からも借入があり、返済順位の問題が発生しました。
・金融機関の立場
親会社と同じ「一般債権者」では困る。親会社を債権者のままにしておくと、自分たちの回収に支障が出かねない。
→ そこで「親会社の債権を株式に転換(DES:Debt Equity Swap)するように」と要請しました。
・親会社・少数株主の事情
100%親会社であれば単純な現物出資増資で済むが、少数株主も存在するため、単純に株式化すると持株比率が変動してしまう。
さらに、親会社側は「必ず返済させるつもりではなかった」ため、単純な債権放棄や通常株式化にも難色を示しました。
こうした背景から、「社債のような性質をもつ種類株式」を用いることで、金融機関・親会社・少数株主の利害を調整する方向となりました。
設計は優先株式による配当・議決権制限
発行された種類株式は、次のような特徴を備えていました。
・優先配当→普通株式に先立って剰余金の配当を受ける。
・劣後条項→ただし、会社の借入金弁済が優先され、借入金が残っている間は優先配当が行われない。
・累積配当→配当できなかった場合は累積し、翌年以降の優先配当に加算される。
・義務的配当→分配可能額があれば必ず配当を実施しなければならない。
・議決権なし→普通株主の議決権比率を維持。議決権復活条項もなし。
配当・返済の順位イメージ
順位 | 内容 |
---|---|
① | 借入金の全額弁済 |
② | 優先株式への剰余金配当(累積分含む) |
③ | 普通株式への剰余金配当 |
こうした条件により、株式でありながら社債に近い性質を持たせました。
将来的な取得条項と設計の柔軟性
種類株式は「取得条項」や「取得請求権」を付して設計されました。
・会社側の取得条項
借入金を完済し、優先配当が履行されている状況になれば、会社は元本相当額で種類株式を取得し消却できる。
・株主側の取得請求権
株主から請求して会社に取得させることも可能。
・残余財産の優先権
解散時には元本と未払い優先配当分のみを回収できる。
結果として、株式でありながら「返済が予定される金融商品」として機能する設計となりました。
実務上の評価と注意点
この種類株式は、金融機関・親会社・少数株主の利害調整の産物でした。
・金融機関→債務超過リスクを回避でき、自己資本比率が改善。
・親会社→一時的に株式化することで金融機関の要請に応じつつ、将来の取得条項で回収可能。
・少数株主→議決権割合が維持され、支配権の希釈を防止。
もっとも、種類株式の設計には高度な条項調整が必要であり、実務でも「社債に極めて近い株式」として取り扱われます。
株主の合意形成、定款変更手続、法務局の登記対応など、多角的な調整が求められる分野です。
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社債的性質をもつ種類株式の設計と実務対応について解説いたしました。
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