種類株式

拒否権付株式の限界、役員選解任権付種類株式の決議に拒否権は付けられるか

拒否権付株式(黄金株)の基本

拒否権付株式は、会社法108条1項7号に規定される「拒否権付種類株式」であり、一般に「黄金株」と呼ばれます。
株主総会や取締役会の決議に対し、特定の株主の同意を必要とする仕組みで、非常に強力な権利設計です。

典型的な利用場面は、事業承継において旧オーナーが後継者を監督する場合などです。
ただし、取得条項を付しても自己株式化するだけで、制度上「拒否権付株式」という存在を完全に消滅させることはできません。そのため、悪用や不測の事態に備えた慎重な設計が求められます。

役員選解任権付種類株式との比較

一方、役員選解任権付種類株式は、株主総会ではなく種類株主総会の決議によって取締役・監査役を選任・解任する権利を有する特殊な株式です(会社法108条1項8号)。

・通常の「議決権制限株式」では、普通株主総会の決議を制御する形で設計する
・これに対し、役員選解任権付種類株式では、普通株主総会を経由せずに、種類株主総会のみで役員を選任できる

この違いから、制度上の位置付けが大きく異なります。

拒否権を付けられる決議の範囲

問題となるのは、役員選解任権付種類株式による種類株主総会の決議に拒否権を付けられるかという点です。

・普通株主総会の決議事項に対して拒否権を付すことは可能
・しかし、種類株主総会の決議に対して拒否権を付けることはできないと解されています

学説・判例上も、相互に拒否権を付け合う事態を避けるため、拒否権付株式の対象は「普通株主総会の決議」に限定されるとされています(会社法コンメンタール第3巻130頁参照)。
したがって、役員選解任権付種類株式で行う役員選任決議に、別の種類株式が拒否権を持つことはできません。

実務上の注意点

・拒否権付株式は強力な権利であり、設計を誤ると経営が硬直化する危険がある
・種類株主総会の決議に拒否権を付与することはできないため、定款設計の段階で必ず確認する必要がある
・実務では、誤って「種類株主総会決議に拒否権を付ける」と定款変更しても、登記審査で指摘されない可能性もあり得るが、その場合でも法的効力は認められない

結論として、拒否権は普通株主総会の決議にのみ付与できることを前提に制度設計を行うことが不可欠です。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、拒否権付株式と役員選解任権付種類株式の関係整理をいたしました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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