属人的株式を廃止する際の種類株主総会の要否と株式交換の実務
属人的株式と種類株主総会の要否
属人的株式は、会社法109条に基づき「種類株式とみなされる」ため、定款で定めを廃止する場合には種類株主総会の決議が必要となります。
本コラムでは、株式交換契約において「属人的株式を廃止すること」を効力発生の条件とし、属人的株式が存在しない状態で株式交換を行うという事例をもとに属人的株式と種類株主総会の要否について解説します。
この場合、属人的株式に関する定款変更は確実に種類株主総会の対象となります。
一方で、株式交換契約の承認については、属人的株式が効力発生日前に廃止されるため、種類株主総会は不要ではないかという論点が生じます。
文献上は「株主が1人の場合には種類株主総会ではなく株主本人の同意で足りる」との見解も紹介されていますが、会社法上の明文規定はなく、実務では種類株主総会の形をとることが一般的といえます。
属人的株式を持たない株主に関する種類株主総会
属人的株式を廃止する場合、問題となるのは「属人的株式を有しない株主」にも種類株主総会が必要かどうかです。
属人的定めの典型例として、複数議決権を付与するケースがあります。
(例)
・発行済株式総数:1,000株
・A株主の100株には「1株につき5,000個の議決権」
議決権計算
株主 | 保有株数 | 議決権数 |
---|---|---|
A(属人的株式の対象) | 100 | 500,000 |
B(通常株主) | 450 | 450 |
C(通常株主) | 450 | 450 |
合計 | 1,000 | 500,900 |
→ この場合、通常の株主総会でもA1人の議決権で可否が決まってしまう可能性があります。
そのため「他の株主だけで種類株主総会を開く必要があるのでは?」という疑問が出てきます。
しかし、属人的株式を廃止することは、属人的株式を持たない株主にとって不利益ではなく、むしろ議決権バランスを回復させる効果を持ちます。
したがって、実務上は属人的株式を持たない株主による種類株主総会は不要と整理されます。
株式交換契約に関する種類株主総会の要否
株式交換契約を行う際、属人的株式が存在している場合には、その承認に種類株主総会が必要となるのかが問題となります。
今回のケースでは、株式交換の効力発生日の前日までに属人的株式を廃止する旨を契約条項で定めました。
そのため、株式交換の効力発生日には属人的株式が存在せず、種類株主総会での承認は不要と整理できます。
もっとも実務上は、属人的株式の廃止と株式交換契約承認を同じ場で議案とし、種類株主総会で決議するケースもあります。これは、解釈上の不安を避けるために「念のため決議しておく」対応といえます。
登記実務とまとめ
属人的株式を廃止する定款変更と株式交換契約承認について、最終的には以下の整理となります。
決議機関 | 定款変更(属人的株式廃止) | 株式交換契約の承認 |
---|---|---|
通常の株主総会 | 必要 | 必要 |
属人的株式に係る種類株主総会 | 必要 | 原則不要(※念のため決議するケースあり) |
属人的株式以外の株主に係る種類株主総会 | 不要 | 不要 |
登記申請に際しては、定款変更前の定款を添付する必要がある点が特徴です。
もっとも、属人的定め自体は登記事項ではないため、登記簿上には何ら変化は表れません。結果として手続は煩雑であっても、登記自体は通常どおり完了します。
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本日は、属人的株式を廃止する際の種類株主総会の要否と株式交換の実務について解説いたしました。
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