取締役と代表取締役の就任承諾を1枚で兼ねることはできるのか?
取締役と代表取締役の就任承諾
取締役と代表取締役の就任承諾は、原則として別々に行うべき。
実務ではそのように取り扱われることが多いですが、法的にはどこまで許容されるのでしょうか?
本稿では、就任承諾のタイミングと手続の整合性に着目しながら、特に取締役会設置会社における代表取締役の就任承諾の有効性について検討します。
取締役と代表取締役の就任承諾は同時にできるのか?
まず、代表取締役の就任承諾書に関しては、「就任時点で取締役の地位にある者でなければならない」という前提があります。
したがって、「取締役に就任したら代表取締役も引き受けます」といった「二重条件付きの就任承諾」は、原則として無効と解されます。
一方で、株主総会での取締役選任直後に取締役会を開催し、同日に代表取締役を選定するようなケースでは、就任承諾のタイミングが重なることもありえます。
このような場合に、1通の書面で取締役・代表取締役双方の就任承諾を兼ねてもよいのか?という点が実務上の論点となっています。
許容されるケースと注意点(取締役会設置会社)
具体的に検討すべきケースは、次の3パターンに分類できます。
ケース | 就任承諾の順序 | 有効性の判断 |
---|---|---|
① 株主総会で取締役に選任後、直ちに代表取締役も承諾 | 取締役→代表取締役の順に承諾 | ○ 有効(一般的) |
② 代表取締役の就任承諾が取締役会の後 | 取締役→代表取締役の順に事後承諾 | × 無効(就任前に選定無効) |
③ 株主総会の前に「取締役+代表取締役」の就任承諾書を取得 | 両方を条件付きで事前承諾 | △ 原則不可(特に代表取締役部分) |
就任承諾が成立するのは、その意思表示が会社に到達した時点です。
したがって、承諾書に「〇月〇日就任を承諾します」と明記されていたとしても、到達日によって法的効果が左右される可能性があります。
とりわけ③のように、「株主総会前にまとめて就任承諾書を取得する」形式では、代表取締役に就任する前提資格(取締役であること)が未充足のまま承諾することになり、原則として無効となる点に注意が必要です(取締役の地位もまだ有していない状況・つまり取締役に就任していない時点での就任承諾は原則として無効)。
ただし、これが、もともと取締役であった者を選定する場面においては結論が異なるため、ここは確認が必要です。
書式の問題と実務上の運用
登記実務においては、代表取締役の就任承諾書については「取締役会議事録を援用する」形で省略されることが多いため、改めて承諾書を取得しない場面も少なくありません。
とはいえ、候補者が株主総会および取締役会ともに欠席する場合などは、別途「就任承諾書」の取得が必須となるため、形式面の整備が求められます。
この際、誤解のない手続を徹底するためには、就任承諾書は「取締役用」「代表取締役用」に分けて準備することが原則として推奨されます。
あえて「兼用書式」を用いた場合に、取締役会前の提出・到達であれば無効扱いとされる可能性もあるためです。
取締役会非設置会社の場合の整理
取締役会非設置会社では、代表取締役の選定機関が「株主総会」か「互選」かによって異なります。
代表取締役を株主総会で選定する場合
→ 就任承諾書の提出自体が不要
代表取締役を互選により選定する場合
→ 取締役会設置会社と同様の整理となり、前提として取締役に就任済である必要あり
いずれのケースでも、「一括して就任承諾書を取得する」運用は誤解の元となりかねません。取締役の地位と代表権の取得は明確に分けて考えるべきです。
原則は「別々の承諾」・実務の精度が信頼につながる
形式面の合理化を追求するあまり、就任承諾の手続に誤りが生じれば、登記の補正や法務局からの指摘リスクが高まります。
代表取締役の就任は、あくまで取締役としての地位を得た者を選定する行為であり、その「順序性と承諾の到達日」が適法性を左右します。
したがって、原則としては就任承諾書を「取締役用」「代表取締役用」で分け、確実なプロセスで手続きを行うべきでしょう。
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本日は、取締役と代表取締役の就任承諾を1枚で兼ねることはできるのか?について解説いたしました。
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