代表取締役の任期に関する実務と注意点、代表取締役の任期だけが他の取締役とずれる場合
代表取締役の任期に関する基本
代表取締役の地位は、取締役の地位に付随しているため、代表取締役としての任期は、取締役の任期に従属するものと解されています。
この点、例えば、ある取締役が代表取締役に選定されていたとしても、その取締役としての任期が満了すれば、当然に代表取締役の地位も喪失することになります。
任期の起算点と補欠規定の有無による影響
会社法第332条では、取締役の任期は原則2年(非公開会社は最大10年まで伸長可)とされていますが、実務では「1年任期」とする非上場企業も多く見られます。
そのような会社で、補欠や増員の定めが定款にない場合、就任時期の違いによって任期に“ズレ”が生じてしまうことになります。
(例)
・株主総会開催日:2025年5月30日
・新任取締役選任日:2025年6月1日
「2025年6月1日をもって、新たに以下の者を取締役に選任する」などとして、期限付決議を行った場合
就任時点の選任日が異なるため、他の取締役が2026年の定時総会で任期満了するのに対し、新任取締役(および代表取締役)は2027年の定時総会で満了することとなります(会社法332条1項の「選任後に終了する事業年度」ルールによる)。
このようなケースでは、「定時総会で代表取締役も選び直す」という通例の書式が使えなくなる点に注意が必要です。
議事録作成上の違和感と実務対応
上記のように代表取締役の任期だけが他の取締役とずれる場合、定時株主総会後の取締役会議事録が「代表取締役選定を行わない議事録」となるため、実務上は違和感を持つ担当者も多く見受けられます。
たとえば、以下のような措置が取られるケースがあります。
・代表取締役の選定議案を掲載しない
・議長に引き続き就任中の代表取締役を明記
・「任期満了しないため選定省略」の旨を余事記載する
これらはすべて法的には正当な処理ですが、形式的には「決議事項が抜けている」と誤解されかねないため、登記申請時に補足説明を付する(申請書送付書に記載)ことで法務局側との誤解防止にもつながります。
不自然な任期のズレを回避するには?
取締役会メンバーのうち1名の任期だけが1年ずれてしまうのは、実務的にも管理上煩雑です。
このズレを防止するためには、次のような対応が考えられます。
方法 | 内容 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
① 補欠・増員規定を定款に明記 | 任期を他の取締役に合わせられる | 実務上自然で柔軟な対応可 | 定款変更が必要 |
② 定時総会時に全員一括再任 | 就任時期の違いをリセット | 手続が簡便 | 無理に辞任を促す形になる懸念も |
③ 就任時期をあらかじめ調整 | 株主総会を5月中に開催する等 | 任期調整が可能 | 時間的制約がある |
事前の任期調整が必須
代表取締役の任期を巡る問題は、代表取締役の地位は、取締役の地位に付随しているため、代表取締役としての任期は、取締役の任期に従属するものであるという基本構造を正しく理解していないと、議事録の作成や登記実務で混乱を招きがちです。とくに、補欠規定がない会社では、就任時期によって思わぬ任期ズレが生じ、実務上の対応に苦慮する場面も少なくありません。
このようなケースでは、事前の任期調整や定款整備による再発防止が重要です。
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代表取締役の任期に関する実務と注意点について解説いたしました。
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