役員変更

代表取締役を株主総会で選任できる?取締役改選期の予選と押印手続の落とし穴

代表取締役を株主総会で選任する会社が抱える実務課題

代表取締役の選定は、通常は取締役会の決議によって行われますが、定款で別段の定めを設けることにより、株主総会の決議で代表取締役を選定することも可能です(会社法第349条4項)。
この制度を導入している会社は少数派ですが、外国人取締役がいる合弁会社や、実質的に株主総会=経営意思決定機関となっている非上場会社においては、手続の簡便性を理由に導入されることがあります。

たとえば、以下のような事情を抱える会社です。

・株主が日本法人と外国法人による合弁会社である
・取締役の過半数が外国在住の外国人であり、取締役会議事録への記名押印の取得が困難
・合弁契約により取締役数・代表取締役数が株主ごとに固定されている

このような場合、「代表取締役の選定を株主総会でも行える旨の定款規定」を設けておくと、登記のたびにサイン証明書を取得する手間や時間を大きく削減することができます。
実際に、今回取り上げる事例でも、株主総会で取締役の選任と代表取締役の選定をそれぞれ別議案として決議してきた履歴があり、毎回、従前の代表取締役が会社実印を押印した株主総会議事録を添付することで登記を行ってきたという経緯があります。

取締役の改選期に代表取締役が交代する場合の押印手続と登記上の注意点

代表取締役を株主総会で選定する定款を採用している会社において、取締役の改選期に代表者が交代するケースでは、議事録の構成や登記手続に特有の実務注意点が生じます。

まず、一般的な取締役会設置会社において、代表取締役を選定するのは取締役会です。したがって、任期満了により取締役を退任する場合、従前の代表取締役は新たな取締役会には出席できず、代表者変更を記載した取締役会議事録には関与できなくなります。
このため、代表取締役変更を伴う取締役会議事録には、出席取締役および監査役全員の個人実印による押印が必要となるのが通常です。

ところが、代表取締役を株主総会で選定する場合には、この構造が大きく異なります。

たとえ代表取締役が退任予定であっても、株主総会開催時点ではまだその地位にあり、議事録に会社実印を押印することが可能です。
その結果、出席取締役全員の記名押印を省略し、従前の代表取締役1名のみの実印押印で議事録を作成・登記に添付することが可能になります。

実際、本件でも、取締役の改選期において従前の代表取締役が退任するケースでしたが、

・株主総会において取締役選任議案と代表取締役選定議案を同日付で可決
・株主総会議事録には、退任する代表取締役1名が会社実印で押印
・他の出席取締役の押印は省略

という構成で登記を申請したところ、問題なく受理されました。

このように、「代表取締役の押印で足りる」という簡素な手続が採用できる点は、株主総会選定型の大きな利点です。
ただし、「株主総会議事録に会社実印を押した代表者が、その議事録で退任している」ことに違和感を覚える実務家も少なくありません。

代表取締役の選定機関と予選の限界、定款・登記・ガバナンスの整合性

代表取締役を株主総会で選定する定款規定を導入すれば、外国人取締役が多い会社や、登記上の押印手続を簡略化したい会社にとっては、非常に実務的なメリットがあります。
しかし、こうした規定を運用するにあたっては、定款、株主総会議事録、代表取締役の地位変動の整合性を慎重に検討しなければなりません。

今回のケースでは、「退任する代表取締役が、自らの退任を含む株主総会議事録に会社実印を押印して添付する」という構成でした。
これは実務上は受理されるものの、「代表権者が自身の退任を認証する」という構図に形式的な違和感を覚える向きもあります。

そこで一時は、「代表取締役に再任させたうえで、数日後に辞任させてはどうか」という案も検討されました。
しかし、合弁会社であり定款に「取締役は5名とする」と明記されていたため、一時的に6名の取締役となることで定款違反となる点が問題となりました。
たとえ辞任を予定していても、定款添付が求められる代表取締役選任登記では、その矛盾が補正理由になる可能性があるため、結果としてその案は採用できませんでした。
最終的には、従前の代表取締役1名が会社実印を押印した株主総会議事録を添付し、他の出席取締役の押印なしで登記を申請したところ、問題なく受理されました。

この経験を踏まえると、次のような会社においては、「代表取締役の株主総会選定型」定款の導入を積極的に検討する価値があるといえます。

適している会社 理由
100%子会社 株主=親会社の意思決定で代表者を管理したい
合弁会社(役員数が契約で固定) 押印手続・サイン証明取得の負担を軽減したい
取締役会設置を外す予定の会社 株主総会主導でガバナンス構成を簡潔にしたい

なお、「代表取締役の予選」は、会社法上の制度ではなく実務上の便法であるため、株主総会選定型では予選の考え方自体が成立しないことにも注意が必要です。
かつては予選を認めないという見解もありましたが、現在では「臨時株主総会で取締役選任と代表取締役選定を同時に行う」方式が登記実務上問題なく受理されており、取締役に就任することを条件とする代表取締役の選定も有効と扱われています。

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本日は、代表取締役を株主総会で選任できる?取締役改選期の予選と押印手続の落とし穴について解説いたしました。
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本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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