職務執行者を複数選任した場合の業務執行と議決権の取扱い
法人社員の内部意思決定と定款整備の実務対応
複数の職務執行者を選任することは可能か?
会社法第598条第1項では、法人が業務執行社員となる場合、その業務を執行するために「職務を執行する者を定めなければならない」と定められています。
しかし、選任する職務執行者が1人でなければならないとは規定されておらず、複数人の選任も可能とされています。
※登記実務上も、代表社員が法人である場合、複数の職務執行者の記載を受け付けています。
複数人の職務執行者が存在する場合の課題
法人が職務執行者を2人以上選任しているケースでは、次のような実務的課題が生じます。
1.業務執行権限を誰が行使するか
・代表社員として対外的に行為する者は誰か?
・対外署名・押印は単独でできるか?
2.社内での意思決定はどのように行うか
・職務執行者間における意見の対立時の処理
・意思決定に必要な過半数や全員一致の要否
3.議決権の扱い
・「職務執行者1人=1議決権」とは限らない
・法人としての業務執行社員の議決権は1つである点との整合性
【具体例】職務執行者が3名の場合
ある合同会社において、業務執行社員である法人A社が職務執行者を3名選任していたとします。
この場合、
・対外的には「代表社員である法人A社」の名において行為される
・その実務行為(署名・捺印など)を誰が担うかは、職務執行者間の内部合意に基づく
しかし、もし3名のうち1名でも意思決定に反対したら?
→ これは、法人A社の内部規程や定款に基づく意思決定ルールがなければ、解釈に迷うところです。
実務上の対処法:定款・内規での整備が不可欠
整備対象 | 推奨事項 |
---|---|
定款 | – 職務執行者の員数上限/下限を規定- 代表権限の所在(全員/1名のみ)を明示 |
内部規程(内規) | – 複数職務執行者の意思決定プロセスを定める(多数決/社長指名 など) |
株主間契約等 | – グループ会社内での業務執行ルールを明文化するケースもあり |
【注意点】議決権の数はあくまで法人社員単位
たとえば、合同会社において業務執行社員が2社ある場合、それぞれに複数の職務執行者がいても、社員としての議決権は法人単位でカウントされます。
社員 | 職務執行者数 | 議決権 |
---|---|---|
法人A社 | 3人 | 1票(A社に帰属) |
法人B社 | 1人 | 1票(B社に帰属) |
したがって、「職務執行者が複数人いるからといって、議決権が増える」わけではありません。
まとめ:複数職務執行者体制には「運用設計」が不可欠
・職務執行者は複数選任できるが、意思決定の仕組みが曖昧なままだと実務上支障を来す
・外部に登記されない場合でも、社内での権限分掌や紛争防止の観点から、整備が必要
・「法人としての意思決定」と「職務執行者の意見の相違」が乖離しないよう、事前の設計と運用ルールを文書化することが望ましい
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本日は、職務執行者を複数選任した場合の業務執行と議決権の取扱いについて解説しました。
次回は、「登記添付書類としての議事録の記載例と不受理事例の差異」について詳しく解説いたします。
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