補欠選任・会計監査人・「平時/有事」対応の実務まとめ
補欠選任された取締役等の任期はどう扱う?
株主総会が遅延・分割される場合に問題となるのが、補欠選任された役員の任期の扱いです。
たとえば、2025年6月30日に補欠で選任された取締役Aがいるとします。このとき、
・Aの任期が「他の役員と同時に満了」するか?
・Aが「独立して1年の任期を持つ」のか?
会社法346条2項では、補欠選任された役員の任期は、元の役員の残任期間と同一とされています。
したがって、補欠選任であれば、継続会により総会が一体として扱われる限り、他の役員と同一のタイミングで任期が満了するのが原則です。
ただし、継続会でなく別個開催とする場合には、補欠か通常選任かを明確にし、議事録記載や登記区分を丁寧に設計する必要があります。
会計監査人の自動再任に注意
会計監査人の任期は、会社法337条により「定時株主総会の終結時まで」とされ、定款または株主総会での再任決議により再任されます。
そして、重要なのは以下の点です。
・定時総会が定款の定めた時期を外れて開催された場合
・継続会で形式的には3か月を超えてしまった場合
これらのケースでは、会計監査人の「自動再任」が認められない可能性が高いとされています。
▼ 実務上の対策
・会計監査人の再任決議を「形式的にでも」行う(再任登記が不要になる可能性)
・登記上の重任日や議事録記載日を正確に設計する
・実際に任期が切れた場合は、新たに選任登記を行う
「平時」と「有事」の実務比較
論点 | 平時の対応 | 有事の対応(例:コロナ禍) |
---|---|---|
定時株主総会の開催時期 | 定款に基づき3か月以内を厳守 | 法務省見解により柔軟対応(3か月超も許容) |
任期満了時点 | 定款所定の開催時期の末日 | 有事の場合でも原則同様、ただし権利義務状態で存続 |
会計監査人の自動再任 | 正常に開催されれば適用 | 開催時期がズレると適用外。再任決議必須 |
補欠選任役員の任期 | 他の役員の残任期間と一致 | 同上(ただし開催方法の設計により独立した任期となることも) |
登記の取扱い | 原則どおり、3か月以内に登記 | 遅延登記となるが、正当な理由あれば補正で対応可 |
専門家としてのアドバイス
平時である現在においては、「有事対応」で認められていた柔軟な実務も、慎重に見直す必要があります。以下の点を踏まえた対応が求められます。
・定款の記載を見直し、「事業年度終了後〇か月以内」の表現を確認
・会計監査人の任期・再任の可否は、必ず事前に確認・整理
・補欠選任や継続会の開催に際しては、登記計画まで見据えた対応が必要
会社法と実務、そして法務局運用の間には微妙なズレがあります。
だからこそ、条文だけで判断せず、経験に基づいたアドバイスと文書設計が重要になります。
手続きのご依頼・ご相談
定時株主総会の開催遅延や分割開催は、法的にも登記実務上も多くの影響を及ぼします。
特に役員の任期、会計監査人の扱い、補欠選任の管理は複雑化しやすく、企業側の法務体制にも一定の専門性が求められます。
定時株主総会の開催時期に言及したコラムを3部お届けいたしました。
平時の株主総会対応の標準化と、有事に備えたリスク管理の一助となれば幸いです。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。