定款変更で株主総会承認に切り替え可能?利益相反取引の柔軟な承認方法
利益相反取引における柔軟な承認スキームの活用法
利益相反取引の承認機関は「固定」ではない?
前回までに解説したとおり、会社法上、取締役会設置会社における利益相反取引は原則として取締役会の承認が必要です(会社法365条1項)。
しかし、実務では「取締役の大半が関係当事者となり、承認が困難」「海外在住のため実印・印鑑証明の準備ができない」など、形式的な承認手続が現実的でない局面も存在します。
こうした場面で検討されるのが、定款を工夫することにより、株主総会での承認を可能にする手法です。
法的根拠と考え方の整理
● 原則:取締役会設置会社における利益相反取引の承認は「取締役会」
・会社法第356条第1項:取締役が自己または第三者のために会社と取引をする場合、原則として株主総会の承認が必要
・同法365条第1項:取締役会設置会社では、上記の承認は「株主総会」ではなく「取締役会」による
ここまでが条文上の原則です。
● では、定款で株主総会による承認も可能か?
結論としては、定款に「株主総会でも利益相反取引の承認ができる」と明記すれば、株主総会による承認も許容されるというのが、近年の有力な解釈です。
実務的根拠
・登記研究871号126頁 等によると、
「取締役会による承認の権限を奪うことはできないが、定款により株主総会による承認を併存させることは可能」とされています。
・これは、代表取締役の選定機関を定款で株主総会に変更可能とする会社法の運用と同様の解釈です。
実務応用例:定款変更+株主総会決議で一気に解決
この仕組みを活用すると、以下のような2段階決議を1つの株主総会(または書面決議)で行うことが可能です。
【ケーススタディ】
・グループ内完全子会社(取締役会設置会社)が親会社に不動産を売却
・子会社は、定款変更を行った上で株主総会で利益相反取引を承認
手順は以下の通り。
手順 | 内容 |
---|---|
① | 親会社(株主)が「株主提案」として定款変更と利益相反承認を同時に提案 |
② | 株主総会(書面決議含む)で定款変更および取引承認を決議 |
③ | 株主総会議事録に会社実印を押印(印鑑証明不要) |
④ | 定款変更と承認が同時に行われているため、登記添付書類は議事録のみでOK(定款添付省略可) |
この方法が有効なケースとは?
ケース | 本手法が有効な理由 |
---|---|
● 海外在住の取締役が多く、実印・証明書取得が困難 | 株主総会なら会社実印のみで完結可能 |
● 取締役が全員利益相反関係にあり、取締役会の決議が不能 | 株主総会では特別利害関係人の排除が不要 |
● 株主が1名(親会社100%)で、株主総会決議が容易 | 書面決議で一括処理でき、実印も1つで済む |
登記実務での注意点
・株主総会議事録に会社実印を押印すれば、印鑑証明書は不要
・同一議事録内で定款変更と取引承認をセットで決議していれば、定款の添付も不要
・登記官に対しては「定款変更による承認機関の追加」であることを明示することが望ましい
まとめ:実務者に求められる「承認スキーム設計力」
このように、会社法の原則を踏まえつつも、定款変更や株主総会の活用によって承認機関を柔軟に設計することが可能です。
特に、一人株主会社・グループ内取引・海外在住役員がいる会社などでは、定型的な承認方法にとらわれない柔軟な対応が求められます。
次回(第4回)は、実際の登記申請で生じた法務局からの照会内容や補正リスクについて、
監査役の異議権の有無、定款添付の必要性など、登記官とのやりとりから得られる注意点を解説いたします。
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