【期間計算シリーズ第6弾(最終回)】基準日が休日だったら? “期日”と“期間”の境界線
満了日が休日の場合
期間計算シリーズ最終回となる第6弾では、「基準日が休日にあたる場合、どうするか?」という、一見シンプルだけれど実務上“地味に怖い”問題を取り上げます。
これは、議決権の確定、株主リストの作成、名義書換停止などに関わる重要な日でありながら、休日に設定してよいのか、あるいは延ばさなければいけないのか……と、判断に迷う実務者も多い論点です。
「基準日」は“期日”であって“期間”ではない
まず、会社法上の「基準日」は、一定の権利(例:議決権・配当請求権など)の行使主体を確定するために会社が任意に設定する1つの日付であり、期間ではなく「期日」です。
会社法124条1項
株式会社は、一定の日を定めて、基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主をその権利を行使することができる者と定めることができる。
「基準日が休日」でも、延びないのが原則
よくある誤解は、
「基準日が日曜だったら、翌営業日に繰り延べるのでは?」というもの。
しかし、結論から言えば、基準日は“期日”なので延びません。
これは、民法142条(期間の末日が休日にあたる場合、翌日に延長)の適用対象が“期間”に限られるためで、単なる特定日(期日)である基準日には準用されないというのが一般的な理解です。
定款記載の基準日が休日にあたるケース
例:「毎年3月31日を基準日とする」と定款で定めていた場合、3月31日が日曜日でも、延びずにその日が基準日とされます。
名義書換の実務上、名簿管理人(信託銀行など)が3月29日(金)終業時点で締切ることになるだけで、基準日が“4月1日にずれる”ことはありません。
この点、金融商品取引法における「権利確定日」や「帳簿閉鎖期間」とも整合しています。
任意に設定する基準日(例:臨時株主総会)の場合は?
定款によらず、取締役会等で臨時に基準日を設定するケースでも、休日に設定すること自体は法律上妨げられていません。
ただし、実務上は次のような注意が必要です。
・ 名義書換の期間が確保できるか?
名簿管理人が実質的に締切作業を行うのは“直前の平日終業時”
よって、基準日が休日でも、実務上の締切日はその前営業日になる
・ 公告スケジュールとの整合
基準日公告(会社法124条2項)は、基準日の2週間前までに行う必要がある
→ 基準日を日曜にすると、公告タイミングも繰り上げ必要となる
つまり、
基準日は「いつにしてもいい」が、名義確定や公告が前倒しになるので、結果的に“時間が足りなくなる”ことが多いのです。
実務上の“安全策”は?
・基準日はなるべく平日に設定する(特に臨時の場合)
・定款に基準日を定める場合も、平日であることを確認
・名簿管理人と事前にスケジュール調整を行う(閉鎖日・公告日など)
期日は延びない。「休日=前倒し」が基本
区分 | 内容 | 休日に当たった場合 |
---|---|---|
期間 | 「~日以内」「~か月間」など | 〇 翌日に延びる(民法142条) |
期日(基準日など) | 単一の日付 | × 延びない(そのまま適用) |
手続きのご依頼・ご相談
「期日は延びない。間に合わなければ“前倒し”」
という原則を徹底しないと、
・議決権のない株主に招集通知を出す
・権利確定がずれて訴訟リスク
といったトラブルのもとになります。
いかがでしたでしょうか。
これで【期間計算シリーズ】はいったん完結となります。
本シリーズでは、実務における「日付のズレ」「1日違いの判断ミス」が、手続全体を無効にするリスクに直結することを何度もお伝えしてきました。
制度の趣旨、民法・会社法のルール、慣行のバランスを踏まえたスケジューリングが、法務のプロフェッショナルとしての信頼を守ります。
引き続き、読者の皆さまとともに、深い実務理解を目指してまいります。
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