【期間計算シリーズ第3弾】備置期間と“初日算入・不算入”の罠 -開示書類と登記期限の間に潜む落とし穴-
初日算入・不算入の考え方
「備置期間は6か月間」と聞いて、何気なく“半年後まで”とカウントしていませんか?
実は、登記や開示に関する期間では「初日を算入するか・しないか」によって、満了日が1日ずれるという重大な違いが生じます。
さらに、会社法の条文には「から」「後」「以後」など、紛らわしい文言が散りばめられており、民法の原則と完全に一致していないケースも……。
本稿では、組織再編・備置書類・合併効力発生日などに絡む“初日算入・不算入”の考え方を、事前開示・事後開示・提訴期間などを通して整理していきます。
民法の原則-午前0時スタートなら初日算入-
まず、民法の基本ルールを再確認しておきましょう。
・原則(民法140条):期間の初日は算入しない(=初日不算入)
・例外:期間が午前0時から開始する場合は初日算入
つまり、「●日から」「●日を含めて●か月間」などの場合、“午前0時から開始するかどうか”がカギになります。
登記や開示書類の備置期間では、効力発生日の午前0時からスタートする場合が多いため、初日算入のケースもあります。
吸収型組織再編の備置期間-“後”と“から”の違い-
会社法782条、794条などに登場する表現は次の通りです。
「効力発生日後6か月を経過する日までの間」
この「後」という表現がクセモノで、民法の用語解釈においては、
・「後」:基準日を含まない(=初日不算入)
・「以後」:基準日を含む(=初日算入)
とされます(日本評論社『法令用語の常識』等)。
ところが、実務上はこの“理屈通り”にいかないケースがあるのです。
【混乱例】事前開示・事後開示・無効訴訟の終期がズレる?
▼ 吸収型の事前開示書類
「効力発生日後6か月を経過する日まで」
→ 初日不算入? 満了日:10月1日?
▼ 事後開示書類
「効力発生日から6か月間」
→ 初日算入で、満了日:9月30日?
▼ 無効の訴え(会社法828条)
「効力が生じた日から6か月以内」
→ 初日算入? 不算入?
このように、表現が異なることで、書類の備置期限と訴訟提起の期限がズレるという事態が理論上発生します。
実務ではどう処理する?-スケジュールの統一-
実務では、以下の理由から「初日不算入」に統一して処理されることが多いです。
理由①:旧商法時代の条文が影響している
旧商法でも「合併の日後6か月」と規定されていたため、会社法制定時に表現だけが踏襲された。
理由②:提訴期間との“平仄”を取る必要がある
無効の訴えの提訴期間(効力発生日から6か月以内)と備置期間の終期がずれるのはおかしいため、同日に満了させる解釈が取られている。
理由③:効力発生日の午前0時に効力が発生するとは限らない
合併の効力発生日に条件がついている場合、午前0時スタートでないこともあり、「算入」することが不安定要素になりうる。
このため、実務家の多くは「備置期間も提訴期間も、初日不算入」としてスケジュールを組み、
・効力発生日:令和7年4月1日
・満了日:令和7年9月30日
と処理します。
新設型ではどうか?登記が効力要件の場合
新設合併や新設分割では、会社法上「登記が効力発生要件」であるため、効力発生日は登記完了時(午前0時とは限らない)です。
したがって、
・原則:初日不算入
・満了日:登記日の6か月後の応当日の前日
として処理すれば、実務上も安全です。
まとめ-「から」「後」「まで」の違いを読み解く-
期間の算定は、条文の文言だけでは判断できないことがあります。
特に会社法は旧商法の表現をそのまま踏襲している箇所があり、民法との齟齬が潜んでいます。
表現 | 含むか | 原則 | 実務解釈 |
---|---|---|---|
「から」 | 含む | 初日算入 | ✔ 通常通り算入 |
「後」 | 含まない | 初日不算入 | ✔ 原則不算入で統一 |
「以後」 | 含む | 初日算入 | ✔ 文脈による |
スケジュールを組む際には、形式的な文言ではなく、目的・他制度との整合性・手続きの趣旨をふまえたうえで判断すべきです。
次回は、「『前日まで』『20日前の日から』などの“特定日を起算とする計算”のズレ」にスポットを当てて解説いたします。
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