【期間計算シリーズ第2弾】逆算計算でつまずかない!過去に遡る期間計算と登記実務の注意点
過去に遡る期間計算
商業登記の実務において、重要なスケジュールの大半は「未来」に向かうものですが、実はそれと同じくらい頻出するのが「過去に遡る期間計算」です。
株主総会の招集通知や基準日公告、債権者への催告通知の発送期限など、「●日前までに」「前日までに」という表現が頻出します。
しかし、この“逆算”の考え方こそが、最も誤解されやすいポイントなのです。
本記事では、民法の原則を押さえつつ、逆算による期間計算の落とし穴と、実務でのスケジュール策定のポイントを解説いたします。
過去に遡る期間計算とは?
例えば、非公開会社における株主総会の招集通知の発送期限。
「株主総会の日の1週間前までに通知を発しなければならない」(会社法299条1項)
この場合の「1週間前までに」は、株主総会の日は算入しない(初日不算入)という民法第140条の原則を準用します。
よって、株主総会の日を除いたうえで、中7日を遡った日が「満了日」となり、その前日までに発送する必要があります。
表現 | 含むか/含まないか | 説明 |
「3日前までに」 | 3日前の日は含まない | =4日前以前に通知必要 |
「前日までに」 | 前日を含む | 前日24時までにOK |
この違いを明確に理解しておかないと、登記期限や通知発送期限を誤認し、重大な実務トラブルにつながりかねません。
休日にかかる場合の考え方 ~延びるのか?繰り上がるのか?~
例えば、逆算によって導き出された「満了日」が日曜日や祝日だった場合。
民法第142条では「期間の末日が休日の場合、取引の慣習があれば翌日に延長」とされていますが、これは将来に向かう期間が対象であると解されるのが通説です。
×過去に遡る計算では、満了日が休日でも原則として延びない
そのため、以下のような処理となります。
逆算で導き出された発送期限日 | その日が休日だった場合 | 実務対応 |
10月27日(日) | 郵便局休みで発送不可 | 10月25日(金)までに繰り上げ |
実務では、休日にかかることを想定して前倒しで発送するのが原則です。
発信主義と到達主義でスケジュールが変わる
通知や催告を「いつまでにすべきか」という点では、その通知が発信主義か到達主義かにより、スケジュールがまったく異なります。
種類 | 規定表現 | 主義 | 起算点 |
株主総会の招集通知 | 「通知を発しなければならない」 | 発信主義 | ポスト投函時点でOK |
債権者への催告通知 | 「通知しなければならない」 | 到達主義 | 到着した日が基準 |
この違いにより、同じ“1か月前までに”という表現でも、期限は実質的に数日異なることがあります。
特に、公告と催告の異議申述期間を揃える際には注意が必要です。
「基準日」が休日の場合の落とし穴
基準日公告などでは、「基準日を含む●日前までに公告」などの逆算が必要になりますが、基準日自体が日曜日の場合どうなるか?
民法142条が適用されないため、休日でも基準日はそのまま有効とされるのが通説です。
ただし、実務上は「株主名簿の名義書換ができない」などの支障を避けるため、平日を基準日に設定するのが無難です。
逆算の期間計算こそ実務家の腕の見せ所
・「●日前までに」=●日前の日は含まない(前日までに通知)
・満了日が休日でも原則として繰り上げ処理
・発信主義/到達主義の区別で実務スケジュールが変わる
このように、過去に遡る期間計算には細かな落とし穴が多く、実務家の正確な理解と判断が求められます。
次回は、「開示書類の備置期間や効力発生日を巡る“初日算入・不算入”」を中心にさらに深掘りいたします。
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