【商業登記と期間計算】登記実務に欠かせない「期間」の正しい数え方とは?
商業登記と期間計算
商業登記をはじめとする会社法務では、「いつまでに手続きを完了しなければならないか」を正確に把握することが極めて重要です。とくに、組織再編や株主総会、登記申請などの場面では、民法および会社法に基づいた「期間計算」の理解が不可欠です。
しかしながら、この「期間の計算」について明確に解説されている実務書は意外と少なく、誤解や混乱を招くケースも少なくありません。本コラムでは、司法書士実務の観点から、よくある誤解や計算ミスを回避するためのポイントを解説します。
期間計算の基本 ~民法における起算・満了~
登記や会社法実務に適用される「期間の起算と満了」は、基本的には民法に基づいて判断されます。
規定 | 内容 |
---|---|
民法第140条 | 期間の初日は算入しない(初日不算入)が原則。ただし「午前0時」から始まる場合は算入する。 |
民法第141条 | 期間は、その末日の終了(24時)をもって満了する。 |
民法第142条 | 末日が休日の場合、その翌日に満了する(ただし「取引しない慣習」がある場合に限る)。 |
民法第143条 | 月・年による期間の計算は「暦に従う」。応当日がない月はその月の末日が満了日となる。 |
実務でよくある場面と計算例
例1:役員就任日の変更登記申請期限(2週間以内)
株主総会開催日:令和7年11月27日(木)
・当日就任承諾の場合:11月27日は初日不算入
・起算日(初日不算入):11月28日(金)
・応当日:12月11日(木)
・満了日:12月10日(水)
ただし、「11月27日午前0時」付就任と明確に定めた場合には、初日算入となり、満了日は12月9日(火)となります。
「○日前までに」「○日前から」ってどういう意味?
実務では、通知の発送期限や効力の起算点として、「〇日前までに」「〇日前から」といった表現が頻繁に登場します。
表現 | 起算点の考え方 | 実務上のポイント |
---|---|---|
○日前までに通知 | ○日前の日は含まない ⇒さらにその前日までに発送必要(到達主義の場合) | |
○日前の日から | ○日前の日は含む ⇒午前0時を起点とすることが多い | |
前日までに | 前日を含む ⇒前日の24時までが期限 | |
○日間 | 起算日含むかどうかは、0時開始かどうかで判断(民法140条) |
到達主義と発信主義 ~通知の発送・到達どちらが基準か?
通知の種類 | 基準 | 判別ポイント |
---|---|---|
株主総会の招集通知 | 発信主義 | 「通知を発しなければならない」 |
債権者への催告通知 | 到達主義 | 「通知しなければならない」 |
この違いにより、債権者保護手続における公告と催告の期間設定が変わってきます。
休日にあたる場合の扱いは?
民法第142条により、将来に向かう期間の満了日が休日である場合には翌日に繰り越されます。ただし、以下のように扱いが分かれる点に注意です。
ケース | 満了日が休日なら? | 民法142条の適用有無 |
---|---|---|
登記申請期限(将来向き) | 翌開庁日まで延長 | 適用あり |
株主総会の招集通知期限(過去向き) | 前倒し(=前の平日) | 原則適用されないとする実務が多数 |
反対株主の株式買取請求権通知 | 通知は前倒しが推奨される | 期限を厳密に守る必要あり |
実務でよくある混乱例と対応策
誤りがちな例
・「3日前までに通知」は3日前の日を含むと勘違い
・「20日前の日から行使可能」と「20日前から」は同じと思い込む
・「効力発生日後6ヶ月」=効力発生日を含むと思い込む
正しい解釈
・「○日前までに」は原則として○日前は含まれない
・「後」は含まない、「以後」は含む
・「から」は含む。けど事後開示などの場合には初日不算入とされる解釈も有力
スケジュールミスは致命的。逆算計算も要注意
登記実務において「期間の誤解」は手続の無効化や登記拒絶といった重大なリスクに直結します。
・民法をベースとした期間計算の原則を理解すること
・「起算日」「応当日」「満了日」を正確に計算できること
・各条文の「通知を発する」「しなければならない」などの表現を読み解く力
・土日祝の取り扱いや登記申請期限の特例(法務局閉庁日ルール)を押さえること
これらが、商業登記のプロフェッショナルとしての基礎力です。
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登記実務に欠かせない「期間」の正しい数え方について解説いたしました。
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