遺言でできることとは?法定遺言事項と記載例を司法書士が解説
法定遺言事項
遺言とは、被相続人の最終意思を明らかにし、相続人間のトラブルを防ぐための重要な法的文書です。
民法では、遺言により法的効力を持たせることができる内容が限定されており、これらは「法定遺言事項」と呼ばれます。
本コラムでは、遺言でできること(法定遺言事項)とその記載例について、司法書士の視点からわかりやすくご紹介いたします。
遺言でできること(法定遺言事項)
以下の表に、民法及び関係法令に基づいて認められている法定遺言事項を一覧化いたしました。
項目 | 内容 |
---|---|
認知 | 婚外子を認知し、法律上の親子関係を成立させることができます。 |
未成年後見人の指定 | 未成年の子の後見人や後見監督人を指定できます。 |
推定相続人の廃除・取消 | 相続人の排除や、その取消を遺言によって行えます。 |
相続分の指定・委託 | 相続人それぞれの相続分を指定したり、第三者に指定を委託できます。 |
遺産分割方法の指定・委託 | 具体的な遺産の分け方を決めたり、第三者に委託することが可能です。 |
持戻しの免除 | 特別受益の持戻しを免除することができます。 |
担保責任の指定 | 相続人間で相続財産に関する担保責任の負担割合を指定できます。 |
遺留分減殺方法の指定 | 遺留分侵害があった場合の償い方法を指定することができます(現在は「遺留分侵害額請求」)。 |
遺贈 | 相続人以外の第三者に財産を贈与することができます(包括遺贈・特定遺贈)。 |
信託の設定 | 遺言によって信託契約を設定できます(遺言信託)。 |
一般財団法人設立 | 遺言により、定款作成や財産拠出による財団設立が可能です。 |
遺言執行者の指定・委託 | 遺言の内容を実現する「遺言執行者」を指定できます。 |
祭祀承継者の指定 | お墓や仏壇などの管理者(祭祀承継者)を指名できます。 |
生命保険金の受取人変更 | 一定の条件下で、生命保険の受取人を遺言によって変更可能です(※詳細後述)。 |
特に注意したい「生命保険金の受取人変更」
【保険法における取扱い】
平成22年4月1日施行の保険法により、生命保険金の受取人は遺言によって変更することが可能となりました(保険法第44条)。ただし、以下の注意点があります。
・遺言が効力を生じた後に、保険者(保険会社)へ通知が必要
・被保険者が別人である場合、その同意が必要
・平成22年4月1日以前の契約には適用されないこともある
【実務上の注意点】
生命保険金の受取人変更を遺言で行う場合には、形式的な要件(自筆証書遺言・公正証書遺言など)の他、契約内容の確認、保険会社の運用方針の確認など、慎重な対応が求められます。
誤った記載は、かえって相続トラブルの火種となりかねません。
可能であれば生前中に直接保険会社へ申し出て変更するのが確実です。
遺言書の記載例
以下は、生命保険金の受取人を変更する旨を記した遺言記載例です。
第1条 遺言者は、遺言者を契約者兼被保険者として、X生命保険株式会社と平成●年●月●日に締結した生命保険契約(保険証券番号:1234567)に関し、保険金受取人を長男・A(平成●年●月●日生)に変更する。
その他、相続分の指定や遺贈、祭祀承継者の指定などについても、法的根拠に則った記載が必要です。曖昧な表現や矛盾した記述があると、かえって遺言が無効になってしまう恐れがあります。
商業登記との関係:遺言で設立される法人
遺言によって一般財団法人を設立することが可能です。
この場合、遺言に定款を記載し、財産を拠出することで設立準備が整えられます。
このようなケースでは、法人登記(商業登記)が必要となり、司法書士によるサポートが極めて重要となります。
手続きのご依頼・ご相談
遺言は「書けばよい」ではなく「正しく書く」が大切です。
遺言は、形式や内容に不備があると無効になってしまうこともあるため、司法書士や弁護士など専門家の関与のもとで作成することをおすすめします。
遺言書の作成から遺言執行、関連する相続登記や商業登記に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。