「補欠役員」と「取締役・監査役の補欠規定」
まったく異なる概念の「補欠」
役員の選任に関する会社法の規定には「補欠」という言葉が登場しますが、一見すると同じ「補欠」でも、その意味合いや適用される場面が異なります。
今回は、「補欠役員」(会社法329条3項)と「取締役・監査役の補欠規定」(会社法336条3項・332条1項) の違いについて整理し、それぞれの役割や活用のポイントを解説します。
事前に選任しておく「補欠役員」(会社法329条3項)
補欠役員とは?
会社法329条3項では、役員に欠員が生じた場合に備え、あらかじめ補欠候補者を選任しておくことができる とされています。
たとえば、取締役の突然の辞任や死亡によって役員数が不足した場合、すぐに株主総会を開いて選任するのは難しいことがあります。特に株主数が多い会社では、株主総会の開催自体が負担になるため、補欠役員の制度は実務上とても有益です。
補欠役員の選任方法と有効期間
・ 定款の定めがなくても、株主総会の決議で選任できる。
・ 「補欠」として明確に選任しないと、一般の取締役・監査役としての選任とはみなされない。
・ 有効期間は、定款に別段の定めがない限り、選任決議後最初の定時株主総会の開始時まで(施行規則96条3項)。
つまり、「いざという時のためのバックアップ役員」を事前に選んでおく制度が補欠役員です。
監査役の補欠規定(会社法336条3項)
監査役の任期と補欠規定の関係
監査役の任期は、原則として定款で短縮することができず、4年(会社法336条1項) となっています。
しかし、途中で辞任した場合に、新たに選任された監査役の任期を「前任者の任期満了まで」とすることは可能です。
この特別なルールを設けるための規定が、会社法336条3項の「補欠規定」 です。
この補欠規定の活用方法
・ あらかじめ補欠監査役を選任していた場合 → その人の任期を前任者の任期満了までに設定できる。
・ 急な辞任で新たに監査役を選任する場合 → 同様に任期を前任者の満了時までに設定可能。
監査役は任期が長いため、前任者の任期満了と統一することで役員改選の時期を揃え、手続きを簡素化できるのがポイントです。
取締役の補欠・増員規定(会社法332条1項)
取締役の補欠と増員のルール
取締役の場合、定款や株主総会の決議によって任期を短縮することが可能(会社法332条1項)です。
そのため、補欠として選任された取締役の任期を「前任者の満了時まで」とすることが可能です。
また、「増員」によって新たに選任された取締役の任期についても、定款の定めにより既存の取締役の任期と合わせることが可能です。
・ 取締役は、増員選任された場合も、他の取締役と任期を統一できる。
・ 監査役にはこの「増員により任期を統一する規定」は適用されない。
取締役の増員時の混乱を防ぐため、定款で任期を統一する規定を入れておくと便利です。
まとめ:補欠役員と補欠規定の違い
項目 | 補欠役員(329条3項) | 監査役の補欠規定(336条3項) | 取締役の補欠・増員規定(332条1項) |
---|---|---|---|
目的 | 欠員に備え、事前に候補者を選任 | 監査役の任期短縮を可能にする | 増員取締役の任期を統一できる |
適用される役員 | 取締役・監査役 | 監査役のみ | 取締役のみ |
選任方法 | 株主総会で「補欠」と明示して選任 | 定款で「補欠規定」を定める | 定款で任期統一の規定を定める |
有効期間 | 最初の定時株主総会の開始まで | 退任した監査役の任期満了時まで | 他の取締役の任期満了時まで |
特徴 | 事前に候補者を確保できる | 監査役の改選時期を統一できる | 取締役の改選時期を統一できる |
実務的なポイント
補欠役員を選任する際は、「補欠として選任する」ことを明確に記載することが重要
監査役の補欠規定は、定款に規定していないと適用できないため、事前に定めておきましょう。
取締役の増員時の任期統一も定款の定めが必要なので、統一したい場合は事前にルールを決めておきましょう。
手続きのご依頼・ご相談
役員の選任に関する「補欠」という言葉は、補欠役員(事前に選任する)と補欠規定(任期調整のための規定)でまったく意味が異なります。
実務では、役員の交代がスムーズに行えるように、定款の整備や事前の準備が重要になります。
役員改選の際には、会社の状況に応じて適切な規定を整えておきましょう。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。