A種優先株式の設定後、株主総会を経ずに発行する方法とは?
種類株式発行会社
会社が資金調達の手段として種類株式を発行するケースは増えています。
しかし、種類株式(本コラムにおいてはA種優先株式とします)を追加発行するたびに株主総会を開くのは手続きが煩雑であり、投資家との交渉にも時間がかかります。
では、A種優先株式を設定した後、株主総会を経ずに発行できるようにするにはどうすればよいのでしょうか?
本記事では、その方法やポイントを詳しく解説します。
種類株式とは
主にベンチャー企業やスタートアップの資金調達手段として、特定の権利が付与された種類株式の一種であるA種優先株式を発行する場合、以下のような内容の種類株式を発行する場面があります。
発行するA種優先株式の内容と特徴
・ 配当優先権:普通株式よりも優先的に配当を受け取れる
・ 残余財産分配権:会社解散時に普通株主より優先して財産分配を受ける権利
・ 議決権の制限:議決権が制限される場合がある
このような特徴を活かし、投資家にとって魅力的な条件を付与することで、資金調達をスムーズに進めることができます。
A種優先株式の発行に必要な手続き
普通株式のみを発行している会社が、新たにA種優先株式を発行する場合、通常は以下の手続きを踏む必要があります。
A種優先株式を発行する際の流れ
① 取締役の決定(投資契約締結・株主総会の議案決定)
② 株主への通知・同意取得(または招集通知発送)
③ 株主総会の決議(定款変更・募集事項の決定・割当承認決議)
④ 投資契約の締結
⑤ 出資の履行(払込)
⑥ 登記申請(定款変更・増資の登記)
問題点
A種優先株式を追加発行するたびに株主総会を開催する必要がある ため、手続きが煩雑になり、資金調達のスピードが遅くなる。
取締役の決定のみでA種優先株式を発行する方法
A種優先株式の追加発行を、株主総会を経ずに取締役の決定のみで行うための方法を解説します。
方法①:募集事項の決定を取締役に委任する(会社法200条1項)
・ 株主総会で「募集事項の決定」を取締役に委任する
・ 取締役が追加発行の条件を決定できるようにする
具体的には、A種優先株式発行時の株主総会で、以下の決議を行う ことで、以後の発行を取締役の決定で進めることが可能になります。
・ 募集株式の数の上限を決定(例:A種優先株式を最大1万株まで発行可能)
・ 払込金額の下限を決定(例:1株1万円以上)
この決議により、株主総会を開かずに、取締役の判断のみでA種優先株式を発行できるようになります。
方法②:募集株式の割当て・総数引受契約の承認を取締役決定とする(会社法204条2項・205条2項)
・ 通常、第三者割当の募集株式は、株主総会の決議が必要
・ 定款に「取締役の決定で割当てを行える」と記載すれば、取締役の判断のみで実施可能
具体的には、A種優先株式を発行する際に、以下の定款変更を行います。
・ A種優先株式の募集株式の割当ては取締役の決定で行う(会社法204条2項ただし書き)
・ 総数引受契約の承認も取締役の決定で行う(会社法205条2項ただし書き)
この定款変更をすることで、株主総会を開かずにA種優先株式を追加発行できる仕組みを整えることができます。
具体的な手続きの流れ
上記の方法を適用した場合、A種優先株式を取締役の決定のみで発行する流れ は以下のようになります。
初回発行時の手続き
・ 取締役の決定(株主総会の招集決定)
・ 株主総会の決議(定款変更・募集事項の決定・取締役への委任)
・ 投資契約の締結・資金調達
この段階で定款を変更し、以降のA種優先株式の発行を取締役の決定のみで行えるようにする。
追加発行の手続き
株主総会は不要!取締役の決定のみで実施可能!
・ 取締役の決定(追加発行の募集事項決定)
・ 投資契約の締結
・ 資金の払込・登記手続き
従来必要だった株主総会を経ずに、スムーズに追加発行を行うことができます。
手続きのご依頼・ご相談
A種優先株式を設定した後、株主総会を経ずに発行するには、以下の手続きを事前に行うことが重要です。
① 株主総会で「募集事項の決定」を取締役に委任する(会社法200条1項)
② 募集株式の割当て・総数引受契約の承認を取締役決定とする(会社法204条2項・205条2項)
③ 定款変更を行い、取締役の決定のみで追加発行できる仕組みを整える
この方法を導入することで、A種優先株式の発行を迅速に行い、資金調達のスピードを大幅に向上 させることが可能になります。
企業がA種優先株式を活用する際は、事前にこの仕組みを整えておくことで、より柔軟な資本政策を実現できます。
種類株式に関するご相談、会社法人登記(商業登記)に関するご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。