合同会社

合同会社における「計算書類の承認義務」は定款に定めるべきか? 匿名組合契約の論点も踏まえて解説

合同会社の定款

合同会社(LLC)は、設立・運営の自由度が高い会社形態ですが、特に「計算書類の承認」を定款に定めるべきかどうかは重要な判断ポイントです。また、匿名組合契約など投資スキームとの関係も考慮すると、さらに検討が必要です。 本記事では、合同会社の計算書類承認義務に関する法律上の位置づけ、実務上のメリット・デメリット、匿名組合契約の論点を含めて解説します。

合同会社の「計算書類の承認義務」は法律で定められていない

合同会社は「持分会社」の一種であり、その運営は会社法で規定されていますが、株式会社と異なり、「計算書類の承認手続き」については法的な義務がありません。

株式会社: 計算書類は株主総会での承認が必須。
合同会社: 計算書類の承認は義務規定がなく、定款により任意に定めることが可能。

つまり、合同会社では「計算書類承認義務」を定款で定めるかは、自由な選択事項です。

計算書類の承認義務を定款に定めるデメリット(入れない方がよい理由)

合同会社のメリットは「簡便さ」と「柔軟さ」にありますが、計算書類の承認を義務化することで以下のデメリットが生じます。

1.運営の硬直化と意思決定の遅延
総社員(出資者)の承認を義務とすることで、事業年度ごとに承認手続きが必要となり、スピーディな経営判断が妨げられます。

2.トラブルや法的リスクの温床に
総社員の承認を義務付けると、未了の場合「定款違反」となり、将来的に紛争リスクを招く恐れがあります。

3.実務負担とコスト増加
少人数運営の合同会社であっても、毎年議事録の作成、署名、保管などの手間が増え、顧問税理士や司法書士への相談コストが発生する場合があります。

計算書類の承認を「任意」とする場合の定款モデル例

合同会社は「社員(出資者)間の合意」で柔軟なルールを設計できます。おすすめは、承認を義務化せず、「報告ベース」にとどめることです。

定款例文(任意報告型)

(計算書類の承認)
第〇条 業務執行社員は、各事業年度終了後、計算書類を作成し、必要に応じて社員に報告するものとする。」


匿名組合出資と計算書類の論点:合同会社定款への影響は?

匿名組合契約(TK契約)は、事業型クラウドファンディングや投資型スキームで広く用いられる契約形態です。この場合、出資者は「匿名組合員」として議決権を持たない一方で、計算書類の閲覧・同意権限を有するかどうかは契約内容によります。

・ポイント:「計算書類の同意義務は契約内容次第で任意」
匿名組合契約では、計算書類の提供や同意は契約条項で定めるものであり、法律上の義務ではありません。
合同会社が匿名組合出資を受ける場合

項目 計算書類の同意 定款への影響
法律上の義務 なし なし
契約上の義務(TK契約) 任意(契約内容次第) 出資者への定期報告義務が発生する場合あり
定款への記載 任意 必須ではないが報告条項を入れることでトラブル回避可能


「計算書類の承認義務」定款規定をどう設計すべきか?(総まとめ)

ケース おすすめ定款方針 定款例文
少人数経営(社員1〜2名) 義務化せず任意報告のみ 「業務執行社員は必要に応じて社員に報告するものとする」
投資家がいる場合(匿名組合出資) 契約内容に基づく報告義務を定款に反映 「業務執行社員は匿名組合契約に基づき、計算書類を出資者に提出する」
複数社員(持分割合が拮抗) 総社員による承認を定款で義務化 「業務執行社員は事業年度終了後、計算書類を総社員の承認を得るものとする」


定款に承認義務を定めた場合のリスク管理ポイント

  1. 簡易な承認方法を定める:「社員全員の書面または電磁的方法による同意をもって、承認に代えることができる」など、迅速な決議手段を設ける。
  2. 承認期限を柔軟に設定する:「各事業年度終了後、○カ月以内」とするなど、実務の負担を軽減する。


株式会社・合同会社・匿名組合の比較(まとめ表)

項目 株式会社 合同会社 匿名組合(TK契約)
計算書類の承認義務 必須 任意(定款次第) 契約次第(法的義務なし)
社員・出資者の同意 必須(株主総会) 任意 任意(契約ベース)
定款への規定 不要(法定義務あり) 規定次第で自由に設計可 契約書で対応
トラブル回避の推奨対応 定期総会 定款に報告・承認条項を盛り込む 計算書類提供義務を契約に明記


手続きのご依頼・ご相談

結論としては、「計算書類の承認義務」は原則定款に入れない方がよいが、状況次第で設計を工夫するべきといえると思います。
基本スタンスとしては、合同会社はシンプルな運営が強みであるため、原則として計算書類の承認義務は定款に定めないほうが合理的です。
ただし、例外対応として、投資家対応や社員間の信頼維持が必要な場合は、報告義務や承認義務を定款に柔軟な形で盛り込むべきといえるでしょう。

合同会社の定款設計は、運営の自由度を大きく左右します。特に、匿名組合出資や複数社員のいる合同会社では、事前のルール設計がトラブルを防ぐ鍵となります。
合同会社設立や会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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