渉外業務

中国在住の中国人が日本で会社設立をする場合の公証書・必要書類の実務

公証書の取得

日本で株式会社を設立する場合、発起人や取締役となる人物について、
通常は「印鑑証明書」によって本人の同一性を確認します。

しかし、中国には日本の印鑑証明制度が存在しません。
そのため、中国在住の中国人が日本の会社役員になるときや発起人となって日本で会社を設立する時は、
公証処(Notary Office)で作成された公証書(署名・印鑑の真正を証明する書面)
を、印鑑証明書の代替書類として提出するのが実務運用です。

中国公証書に対する「日本大使館認証」の取扱い変更について(2023年11月以降)

従来、日本で会社設立を行う際に、中国在住の中国人や中国法人による署名・印鑑証明書類として中国の公証書を用いる場合、
① 署名公証(公証処)
② 外務局認証(中国外交部)
③ 日本大使館・総領事館の領事認証

という三段階の認証手続きが必要とされていました。
しかし、2023年11月7日以降、中国と日本の間でハーグ条約(外国公文書の認証を不要とする条約)が発効したことにより、認証制度が大きく変わりました。
現在では、中国外交部(または地方の外事弁公室)で発行された「アポスティーユ(Apostille)」付きの公証書があれば、日本大使館での追加認証は不要となります。

つまり、現在の実務では以下の2段階で足ります。
① 公証処での署名・印鑑の真正証明
 →日本の印鑑証明書に代わる本人確認書類として作成
② アポスティーユ付与(中国外交部または地方外事弁公室)
 →ハーグ条約に基づく公式証明。旧来の「領事認証」に代わるもの

Apostille(アポスティーユ)とは

Apostille(アポスティーユ)とは、ハーグ条約に基づいて外国で作成された公文書の真正を証明する国際的な認証制度であり、加盟国間では領事認証の代替としてそのまま法的効力を持つことが認められています。
日本はこの制度を採用しているため、外国で発行された公証書を日本で使用する場合にはApostilleの付与が必要とされています。これがない書類は日本の登記手続きで使用することはできません。
(参考:証明(公印確認・アポスティーユ)・在外公館における証明

日本法務局や公証役場でも、中国発行のアポスティーユ付き公証書を正規の証明書類として受理する運用が広がっています。
※注意点※
アポスティーユと旧来の「領事認証(consular legalization)」は制度が異なるため、依頼先の公証処・外事弁公室には「アポスティーユ(Apostille)としての発行」を明確に依頼してください。

公証書の内容と、住所記載がない場合の補完資料

公証書には、通常以下の情報が記載されます。

・氏名
・署名または印鑑
・生年月日・性別
・住所

しかし、実務上は住所の記載がない公証書も一定数存在します。
住所がない公証書は、そのままでは使用できません。

定款認証・設立登記では、
「住所の確認」が必須であるため、住所のない公証書のみでは足りません。

補完方法

住所の記載を補うには、次の2点セットで対応します。

必要書類 内容
① 公証書(住所なし) 本人の署名・印鑑の真正証明
② 公民身分証のコピー(住所付き) 顔写真・住所・身分証番号があるもの(原本照合済+署名)

※住所付きの公証書がある場合は②は不要

中国の会社が発起人となる場合の必要書類(個人と大きく違う点)

中国法人が日本で会社を設立するケースも増えています。
日本法人が発起人になる場合は、
・履歴事項全部証明書
・印鑑証明書
を提出しますが、
中国にはこれらに対応する公的書類が存在しません。
そのため、以下のように「公証書で代替」するのが実務です。

(1)営業許可証(Business License)の公証書化
中国企業に交付される「営業許可証(厚紙の原本)」は、
日本の登記事項証明書に相当する唯一の公式文書ですが、
・原本は1枚のみ
・役所からの再発行がない
・持ち出しに制限がある
という性質があります。

そこで、
営業許可証のコピーについて「原本と相違ない」旨の公証書(外務局認証付き)
を作成し、日本ではこれを履歴事項全部証明書として扱います。

(2)印鑑証明書の代替書類(代表者の実印証明)
中国には印鑑登録制度がありません。
したがって、
法定代表人が公証処へ出向き、印鑑(または署名)の真正を証明してもらう公証書
を作成します。
これが日本でいう印鑑証明書の代替となります。

中国法人が発起人になる場合の書類一覧

日本で必要とされる書類 中国法人の場合の代替
履歴事項全部証明書 営業許可証コピーの公証書+外務局認証
印鑑証明書 法定代表人の印鑑(署名)公証書+外務局認証
代表者資格証明書 営業許可証中の「法定代表人」記載で代替

よくある失敗例と実務の注意点

・住所なし公証書のまま定款認証に向かい、直前で差し戻し
 住所情報の確認ができないため、最も多い補正事例です。
・日本大使館認証が必要だと思い込んで余計な手続きを依頼
 2023年以降は外務局認証だけで足りるケースが大半。
 費用・日数が大きく変わるため、誤認によるロスが発生しやすい。
・営業許可証の原本を日本に送ろうとする(NG)
 原本は中国企業にとって極めて重要で紛失リスクも大きいため、
 コピー+公証の方法が唯一の実務対応。

本コラムのまとめ

中国案件は、
「日本の制度」と「中国の制度」が親和性を持たない部分が多く、
公証の形式・内容により法務局の判断が分かれやすい領域です。
当事務所では公証書の事前チェックなどを含め、案件ごとの最適なルートをご提案しております。

本コラムのまとめ
・中国在住の中国人が日本で会社設立する場合、公証書が印鑑証明書の代替になる
・2023年11月以降は、公証処+外務局認証の二段階で足りるのが実務
・住所記載がない公証書の場合は、公民身分証のコピーで補完
・中国法人が発起人の場合は、営業許可証のコピー公証が最重要

手続きのご依頼・ご相談

本日は、中国在住の中国人が日本で会社設立をする場合の公証書・必要書類の実務について解説しました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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