渉外業務

外国会社が日本から撤退するときの登記手続

全ての「日本における代表者」退任と日本支店閉鎖の実務フロー

外国会社で日本登記のある法人は、「日本における代表者」を必ず1名以上、日本に住所を有する者から選任しておく必要があります。
この「日本における代表者」が全員退任するということは、実務的には
・日本での事業活動をやめる
・日本支店を閉鎖する
・日本から撤退する

という場面とほぼ同義です。

このとき、単に代表者を退任させて登記を抹消すればよいわけではなく、
会社法820条に基づく債権者保護手続+退任登記(=登記簿閉鎖)
という流れで進める必要があります。

以下では、「どのような登記手続と書類が必要になるか」を中心に整理します。

全ての日本における代表者が退任する場合の法的枠組み

会社法820条1項は、次のように定めています(要旨・ポイントのみ抜粋)。

外国会社の登記をした外国会社は、日本に住所を有する日本における代表者の「全員が退任しようとするとき」は、
債権者に対して異議を述べることができる旨を官報で公告し、
かつ、知れている債権者には各別に催告をしなければならない。
(期間は1か月以上)

また、同条2項では、期間内に異議を述べた債権者がいる場合に、
・弁済
・相当の担保提供
・信託会社等への信託

のいずれかを行うことが求められています(ただし、退任しても債権者を害するおそれがない場合は不要)。
ポイントは、単なる「役員変更」ではなく、「撤退に伴う債権者保護」が前提になっているという点です。

債権者保護手続と登記の全体フロー

まずは、撤退時の全体的な流れを一覧で押さえます。

全体の流れ(イメージ)

段階 手続の内容
撤退方針の決定(本国での社内決裁など)
日本における代表者全員退任の予定日・スケジュールの確認
債権者保護手続の準備(公告文案・債権者リスト整備 等)
官報公告+知れたる債権者への個別催告
異議申出があった債権者への対応(弁済・担保等)
退任の事実に関する宣誓供述書の作成・訳文の準備
債権者保護手続を行ったことを証する書面の収集
外国会社の全ての日本における代表者退任登記の申請
登記簿閉鎖(日本での登記記録がクローズされる)

以下では、登記に直結する部分を中心に、開設します。。

官報公告の内容とタイミング


①官報公告で何を告知するか

公告の趣旨は、「代表者全員の退任に異議がある債権者は一定期間内に申し出てほしい」という呼びかけです。
典型的な記載イメージ(内容のみ)は、次のような構成になります。
・全ての日本における代表者が退任すること
・異議がある債権者は、公告掲載の翌日から○か月以内に申し出ること
・外国会社の名称・日本における代表者名・所在地 等

実務上は、期間は「1か月以上」であれば足りますが、公告日から逆算して登記申請日・撤退日をどう設定するかを事前に整理しておくことが重要です。

②知れている債権者への個別催告

官報公告だけでは足りず、「知れたる債権者」には個別に催告が必要です。
・取引先リスト・債務一覧表等をもとに送付先を確定
・官報公告と同趣旨の内容を、書面で個別送付

この「催告をした事実」を、後で登記の添付書類として証明する前提で、
発送控・送付先一覧などをきちんと残しておきます。

「全ての日本における代表者退任」の登記申請


①登記の目的・効果

登記上の目的はシンプルで、

外国会社の「全ての日本における代表者退任」の登記を申請する
→ その結果として、外国会社の日本における登記簿が閉鎖される

という形になります。

②管轄法務局

管轄は、営業所(日本支店)の有無によって異なります。

状況 管轄法務局
日本に営業所がない場合 日本における代表者の住所地を管轄する法務局
日本に営業所がある場合 営業所所在地を管轄する法務局

日本に支店・営業所があるケースでは、営業所所在地の管轄法務局に申請することになります。

③登録免許税

・登録免許税:9,000円
外国会社の全ての日本における代表者退任登記については、金額は固定です。

登記に必要となる主な添付書類

登記申請の際に一般的に求められる書類は、概ね次のとおりです。

書類 内容・目的
退任の事実を証する宣誓供述書 日本における代表者が退任したこと、日本における事業活動を終了したこと等を宣誓した書面
上記宣誓供述書の訳文 外国語で作成した場合の日本語訳
債権者保護手続を行ったことを証する書面 官報掲載紙面の写し、個別催告の発送記録など
異議債権者への対応を証する書面(ある場合) 弁済済みであること、担保提供済みであること、信託設定済みであることなどを示す書面

宣誓供述書のフォーマットや、どの程度の証拠資料を添付するかは、
案件ごと・法務局ごとにニュアンスが異なる部分もあるため、個別に確認しながら進めることが望ましいです。

登記簿の閉鎖と「閉鎖日」の扱い

外国会社の全ての日本における代表者が退任すると、その外国会社の登記記録は閉鎖されます。

①登記簿の見え方

閉鎖された登記簿の「登記記録に関する事項」には、
基本的に次の2つだけが記載されます。
・全ての日本における代表者退任の登記申請日(登記をした日)
・同日の「閉鎖日」

例)
登記記録に関する事項:全ての日本における代表者退任
令和●年●月●日登記
令和●年●月●日閉鎖

ここで注意すべきなのは、「閉鎖日」はあくまで登記簿が閉鎖された日であって、
外国会社が社内的に決めた「日本支店閉鎖日」「日本撤退日」そのものではない、という点です。

②税務等で「支店閉鎖日」の証明が必要な場合

税務申告等で、「日本支店をいつ閉鎖したか」を明らかにする必要が生じることがあります。
しかし、登記簿には閉鎖日しか記載されないため、実務上は、
日本支店の閉鎖日を具体的に記載した宣誓供述書 など
を別途用意し、それを証拠として用いる対応が行われます。

営業所廃止登記との関係(支店のあるケース)

日本に営業所(日本支店)がある外国会社の場合、
登記上「支店の廃止日」を残したい場合には、手順を工夫することができます。

手順の組み立て方

手順 内容
先に「営業所廃止」の登記を申請する
営業所廃止日を登記簿に記録させる
その後に「全ての日本における代表者退任」の登記を申請し、登記簿を閉鎖する

この順番を踏むことで、
・営業所廃止日(支店閉鎖日)
・代表者退任による閉鎖日

の両方が登記記録上に残る形になります。

実務上のチェックポイント(まとめ)

最後に、実務で特に注意したい点をチェックリスト形式で整理します。

チェック項目 確認したい内容
債権者保護期間 官報公告日から1か月以上確保しているか
個別催告範囲 「知れている債権者」を漏れなくピックアップしているか
異議債権者の有無 期間内に異議申出があった場合の対応を整理しているか
宣誓供述書の内容 撤退の事実・退任の事実・支店閉鎖日など、証明したい内容を適切に盛り込んでいるか
管轄法務局 営業所の有無に応じて管轄を間違えていないか
営業所廃止との順番 支店の閉鎖日を登記簿に残したい場合、営業所廃止登記を先行させているか
登記期限・スケジュール 債権者保護期間終了後~登記申請日までのスケジュールが無理なく組めているか


手続きのご依頼・ご相談

本日は、外国会社が日本から撤退するときの登記手続について解説しました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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